コード・ブルー ‐もう一人の医者‐ (ページ19)

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(藍沢)

半ば強制的に参加させられた飲み会。

いつも淡々としているアイツの事だ、
特に盛り上がりもせず終わるんだろうと思っていた。

…それなのに。

『ドイツのビールより、
　断然こっちのビールの方が美味しい。本当に。』

「A良い飲みっぷりー！」

「恒夫おかわりー。」

…静かに終わると思っていたのに。

『美帆ちゃん、恵ちゃん、はるさん、藤川。』

「俺の扱いだけ雑じゃねーか！」

「あははっ、いつもあんまり笑わないくせに、
　このギャップがたまんないわ。」

普段の真顔は何処に行ったと
聞きたくなる程に笑っている。

Aは、あんな風に笑うのか。

Aが男じゃないと分かってから、
存在を気にするようになった。

コンサルに走り回るAを、
無意識に視界の端に入れている。

不思議なヤツだから。

海外から来た医者だから。

あの技術を見て学びたいから。

医者のくせに倒れられたら困るから。

ずっと、そう思っていた。

けど、笑っている姿を不意に見た時。

何故かあの笑顔に強く惹かれた。

普段笑わないAが笑っているからだろうか。

仲良くなる為だと言って、
俺の名前を呼んだからだろうか。

―――ええと…耕作くん、宜しく。

…同期なんだろ、耕作でいい―――

酒のせいもあるが、スルリと言葉が出た。
いつもと同じ様に、無愛想な俺の言葉に、
Aは、笑った。

『耕作はやっぱり、手が器用だ。』

思考の海から引き上げたのはAで。
所謂、女子会はどうしたのかと目を向ければ
酔った状態の緋山と白石が愚痴を零しているらしい。

『颯馬…名取の事だから、居た堪れなくて。』

向かいのソファーに座ったAは
微妙な顔をしていて。
そう言えば知り合いだったな、と思い出す。

『フライト、楽しみ。5年振りだから。』

「…明日担当だろ。
　二日酔いで乗れない、なんてなるなよ。」

一度瞬きをしたAはまた笑う。

『分かりにくいなんて言われてるけど、
　案外分かりやすい、耕作は。』

「どう言う事だ。」

『心配だから程々にしとけって言いたいんだ。
言いたい事が上手く伝わらないのは良く分かる。』

会話は途絶え、静かな時間が俺達の間に流れた。
決して苦痛な時間じゃなく、心地良い時間が。

それは、緋山と白石がAを捕まえに来るまで
俺とAを包んでいた。