よくある話【沖田】 ページ2
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「__総悟、あのね……私、来月結婚するの。」
幼い頃から片思いしてる人がいる。
何十年も苦しめられてきた恋煩い。しかしその苦しみも終わりを告げようとしていた。
それも、最も望まない形で。
幼馴染のAは社長令嬢で昔から許婚がいた。
つまり元から叶わない恋だった。
Aの親父に「許婚がいるから娘はやれない」と釘を打たれていたし、高校に上がる少し前に彼女は引っ越して行った。
離れてしまえばこの想いに別れを告げることができると思っていたのに。
どうしても、忘れることができなかった。
「ねぇ、話聞いてた?」
「悪ィ、聞いてなかった。」
彼女以上に誰かを好きになることはこれからもうないのだろう。
金持ちなくせに庶民派な所とかコロコロ変わる表情とか…
「だから総悟の家で飲み会するの!宅飲みよ宅飲み!!私と彼で買い出し行ってくるから。」
全部、全部好きだった。
「…変なの入れんなよ。
中学の時のまだ根に持ってだからな。」
「うわ〜ねちっこい!!」
「うるせェ。」
どれだけ好きでも彼女の隣にはいられない。
彼女の隣に立つべき人は俺じゃない。
そもそも俺とAと許婚の3人で宅飲み?
冗談じゃねェ。何の拷問だ。
…こんな事なら玉砕覚悟で告白すれば良かったか?
いや、アイツを困らせたくはない。
アイツが幸せなら…まァそれはそれで…
「…よかったらこんな思いしてねェか。」
自傷気味に小さく溜息をつく。先程片付けておけと言われ家に帰って来たが元々質素な部屋なので特にする事もなく、食べ物を探す現在。
ふと、携帯が鳴った。
画面を見れば表示されていた名前は《A》と。
「遅い」と文句の一つでも吐いてやろうと電話に出れば、出たのはAではなくその許婚。その声色はかなり焦っていて、周りも随分と騒がしい。
「あっ…総悟くんか!?」
「そうですけど…Aは?」
「……A、は…車に、撥ねられて…!い、今救急車の中で、それで、意識が、」
ああ、この展開はよく知っている。
ドラマで見たことがあるアレだ。主人公の恋人が__っていうベタな展開のアレ。
「…意識が、戻らないんだ……」
やっぱりそうか。なんて呑気に考えている俺は随分と冷静で、その次に紡がれた言葉にもさして驚かなかった。
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作者名:柊ひな | 作成日時:2019年10月20日 0時