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Aに会うことが出来たのはあれから3日後。


幸い意識は戻ったが"記憶喪失"と診断され、家族のことは疎か自身の友人も許婚の彼のことですら覚えていなかった。


俺はというと、そんなAに今日会いに行く。


珍しく緊張している自分にらしくないと思いつつも花束片手に彼女の病室に足を踏み入れる。所謂お見舞いというやつだ。



「今度はだ……あ、」



身体に包帯やガーゼをつけている彼女が此方に振り向きながら呟き、暫くして目が合う。


俺のことも覚えていないのだろう。…その方が良い。そしたらきちんと諦めがつく気がした。



だが神とやらにどうも俺は好かれていないらしい。




「…総悟っ!!良かった、やっと会えた…!目が覚めたら知らない人ばかりで…っ、」




ベッドから降り、走り寄って抱きついてきた彼女が声を震わせて話す。




「ずっと怖かったの…!側にいて…私には…総悟しかいないの…」




残酷にも、Aは俺のことだけ覚えていた。


衝動で落ちてしまった花束をそのままにAの背中にそっと腕を回す。




「…あァ、俺もだ。」




どうやらこの恋は楽に死なせてはくれないようだ。





許婚の彼女とよく見ていたドラマがある。


このドラマは主人公の恋人が事故で記憶喪失になり、辛いことに主人公のことだけ忘れてしまうというありがちな物語だった。


「私だったら、絶対に好きな人のことなんて忘れないのに。」


隣で呟いた彼女が誰を想って言ったのか、今となっては尋ねなくても分かってしまう。




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作者名:柊ひな | 作成日時:2019年10月20日 0時

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