【twst】監督生の可能性と世界の可能性 (ページ1)

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ルーク×監督生1　※5章前の世界線ページ1

私は歌が好きだ。
小さい私は母にねだり、遠い場所にしかない合唱団に入らせてもらって、毎日のように特訓に励んだ。
どれだけ辛いことがあっても、嫌なことがあっても歌ってしまえばそんな事は馬鹿なことのように思えて来て、また頑張ろうと思えるような、それくらいに歌が好きだった。

でも、この世界に飛ばされてからはなかなか歌えない日々が続いた。
勉強だって知らないことばかりなのに加え、ここは男子校。専ら高音を得意としていた私は歌ってしまえばすぐに女子であるとバレそうな気がして怖く、中々歌えないでいた。
そんな中、私が思いついた思いっきり歌える方法。
それは夜歌うことだった。
グリムは爆睡しているし、寮も近くにはないし、ゴースト達は私が女であることを知っている。
しかも、ゴースト達は私が歌うと楽器を持ち寄って盛り上げてくれるのだ。
そんなここの世界での最高の会場。
「――♪」
今日は少し調子に乗って、オンボロ寮の外に出て歌っていた。
この世界で唯一、元いた世界との繋がりを感じられるこの瞬間。
私が歌を思い出せる限り、いつかは帰れるんだってそんな希望を持って歌う。
やっぱり外で歌うのは気持ちがいい。
いつか、駅前でコンサートを開いたことを思い出す。
あの時は何を歌ったっけ？
なんだか楽しい曲だった気がする。
皆が笑って、私も笑って、最高に楽しかった。
私は自然と笑顔になって、口から音を奏でていく。
周りの状況なんて見えてなくて、そんな事はもうどうでも良くて、私は私の世界に入っていた。
だから、人の存在なんか気づくはずもないのだ。しかも、狩人として名高い人なら尚更。
私は、一曲歌い終えてやっとで目の前にいる存在に気づいた。

「なんて美しい声なんだ。思わず引き寄せられてしまったよ。」

暗闇の中でも存在感を醸し出す、美しい金色の髪。そして、獲物を捉えて離さない緑の瞳が私を見つめてそう言った。
私はいつからいたのか、どうしてこんな夜中にここにいるのか、そして、私の性別に気づかれたのでないかと不安や疑問が押し寄せるが、頭がどうにも上手く処理しきれず言葉にできない。
「あぁ、すまない。驚かせてしまったようだ。ce soir(こんばんは)、トリックスターくん。私の事はご存知かな？」
彼そう言いながら帽子を外し、まるで映画のワンシーンのように美しい礼をしてみせた。
知っているも何もポムフィオーレ寮の副寮長であるルーク•ハントの事を知らない人はこの学校にはいないだろう。