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なまえが煙管に出会ったのは、何時も珱姫にやらせている歌留多モドキを拝借したのと同時期だ。
そこまで年号を遡りはしないものの、まだその頃は半妖も今より世に少なく、まして妖の存在は徳川の時代よりも多く、裏社会では認められている存在、周りにも半妖と気付かれにくい世界だった。
妖というだけで裏社会に高評価され、妖と気付かれれば組織や政の類に求められる。悪く言うと買われるのだ。
それになまえも例外ではなく、一時は嫌々外国との交渉に一役かっていた時期もあった。まあ、ちゃんと重宝されたが。
とにかくその時に偶然手に取ったのが、パイプだった。パイプは苛々を何と無く落ち着かせてくれる。阿蘭陀(オランダ)の使節達がよく吸っていたのを見て、ただの興味本位だ。
実際最初は、煙たいのがウザかったはずが、吸ってみると良い気分転換に成ってしまったという始末。
しかしその後すぐ鎖国があって外国との貿易も無くなったのもあってか、いつしかパイプの存在も薄れ、代わりに煙管を使う様になったのも無理はない。
まだ煙管を使う武家や遊郭は少ないため、吸う時は場所を選んだが、静かに考え事をしたい時には絶好の機会だ。
『吸いたい...』
そんなこんなで、珱姫が寝た頃合いを見計らって、毎晩半刻程ぼーっとするのが日課になっていたのだが。吸いたくなった。
ただ今は、珱姫と絶賛対戦中。しかも彼女は腕を上げてきているのか、なかなか難しい事になっている。
そのせいか、無性に煙管を取り出したくなってしまって。いつの間にか中毒で、簡単な考え事をしたり集中したいときにはもう求めるようになってしまったようだ。
「なまえダメですよ」
『う...我慢するよ』
私の葛藤が伝わったのか、すかさず珱姫のお言葉が入る。
解っている。解っているのだが。
『このままじゃあ、負けちゃう』
やばいやばい。
一度集中しなおしたい、やっぱり謝って一服させて貰おう、そう思った時だった。
「なまえ」
『是光うるさい。なに』
今ので完全に切れた。
プツンと切れたよ集中が。
「お呼び出しだ」
『はぁ』
「なまえ、私の事は気にせず、行って来てください」
『面倒くせぇ』
「女人がそのように、いけませんよ」
きっと今のは口の悪さに言っているんだろう。
それでも気分が最悪なのだ。珱姫との大事な時間を割かれた上、この屋敷で一番気に食わない奴と会わねばならないのだから。
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作者名:ばっちゃん | 作成日時:2018年1月27日 23時