壱 ページ3
慶長年間京都・・・
そこは、妖がさまよい、生肝信仰という得体の知れない信仰が流行っていた。
そんななか、京一の美女と呼ばれ、なおかつどんな難病でも治癒させてしまうという力を持った姫、珱を警護するように言われているのは花開院の是光だ。
こんな力を持った特別な人物を狙うのは、生肝信仰の妖くらいだ。
結界を張り、常に見張りをおいている。
「珱姫様、おかわりございませんか」
「ええ、大丈夫です。こちらには、頼もしいお方もおられますから。」
そう付け加えて、珱姫は言う。
その目線の先には、部屋のすぐ目の前の縁側に腰掛ける、なまえがいた。
「左様ですか。なにかありましたら、すぐに仰ってください」
「もちろんです」
そう言い返せば、気配が消える。
なまえはその隙を付いたかのように、溜息を吐いた。
そんななまえに珱姫は苦笑した。
「なまえ、そんな毎度毎度ため息をついておられては、幸せが逃げますよ?」
『だって、息が詰まるじゃないか』
「是光様も悪気は無いのです」
『解っているけど、さすがにこう四半刻もおかずに顔を出されると』
気が滅入る・・・と続けてまた息を吐いた。
別に是光が嫌いなわけじゃない。
ただ、夜こそが警戒すべきだと煩いくらいに部屋の前に現れるのだ。
見張られているのが自分のようで息が詰まりそうだった。
『それよりさ、』
「?」
『いつもの、やらない?よーちゃん』
「っ・・・はい!」
***
”よーちゃん”
なまえと出会ってすぐ、そう呼ばれた。
他の人に聞かれれば、身分を弁えろと言われた。
だからそれ以来、近しい人が居る前以外では呼ばないようにしていた。
なまえは、珱姫が物心着く頃に屋敷へやって来た。
身の上は知らず、珱姫の世話役としてあてがわれ、ずっと暮らしていた。
いつの間にかただの世話役ではなく、まるで姉妹のように接し、珱姫は姉のようになまえを慕った。
そして珱姫が父にこのように軟禁のように囲わさせられるようになったのはつい最近のこと。
そしてそれを期に、なまえは初めて自分の身の上を珱姫に話した。
自分が半妖であること、そしてなぜこの屋敷にやってきたのか。
その理由は、この花開院とこの二人しか知らないこと。
なまえは、花開院秀元に縁あって遣わされた、使者なのだ。
もちろん、珱姫は解ってくれた。
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作者名:ばっちゃん | 作成日時:2018年1月27日 23時