この手に余る幸せを【約ネバ/短編集】

触れたい1【ノーマン】(ぬん) ページ7

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【著作:ぬん】



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「ノーマン！おはよう！」


大学も卒業し、就職先も決まり、今日は休日。
新しい住居に1人暮らしを始めてから数ヶ月ほどが経った今でもなお、彼女は僕のことを起こしてくれる。


「おはよう、A。」


僕が返事をすれば眩しいくらいな笑顔を見せるA。カーテンしてても意味ないじゃないか。


「今日はね、きっといいことがあるよ！」
「どうして？」
「だってノーマン幸せな夢見たでしょ？寝言で「美味しい」って言ってたもん！」
「…なんか恥ずかしいからやめて。」


僕が朝食を作ってる横で沢山話しかけてくれるA。
なんだか照れ臭くて、Aの方を向かないようにしてたら、Aは僕の名前を呼んで


「ノーマンが幸せなら、私も幸せなんだよ！だから、朝から幸せそうなノーマン見れてよかった！」と言った。


ニパッて笑う彼女が可愛くて、思わず頭を撫でようとするが、触れられなかった。
彼女の頭をスルッと通り抜ける僕の手を見て、彼女は寂しそうに笑うのだ。



「…A。」
「…ん？どうしたの？」



「本当に、今幸せなの？」



いい音のなるガスコンロを止め、Aの方を見てそう言えばAは吃驚した表情で僕を見る。
しかし、すぐまた笑顔に戻って


「幸せだよ。だってノーマンが一緒にいてくれるんだもん。」

と言うのだ。


胸がキュウっと痛んだ。



僕だって、Aと喋れるのは幸せだ。
僕だって、Aの笑顔が見れるのは幸せだ。



でも、




「僕はAに触れたい。」




彼女のことを困らせているのは分かっている。
彼女がそんなこと望まないのも分かってる。




「しょうがないよ、私生きてないんだもん。」



彼女の姿は確かに見えるのに、
彼女の声は確かに聞こえるのに、



彼女は僕と違う世界を生きているのだ。



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