【鬼滅の刃】憂い夜に咲く水草華。【竈門炭治郎】 (ページ9)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:25,106 hit

八話ページ9

「炭治郎。お前に客人だ」

「え？俺にですか？」

鬼にされた愛らしい娘をじっと見ていれば後ろから声が聞こえた。

優しげな少年の声だ。なんだか落ち着く。

「禰豆子の寝ている部屋にいる。いってこい」

炭治郎と呼ばれた少年はこちらに向かって来ているのだろう。ゆっくりとした足音が聞こえる。

背後にある扉がすぅっと静かに音を立てて開いた。

ゆっくりと視線を上げた先にいたのは妹と似た愛らしい顔を持つ、額に火傷のある子。

赤みを帯びた黒髪を後ろで結び、綺麗な赤目でこちらを不思議そうに見ている。

声だけ聞けば男の子なのに、なんだかその形は女の子の様だ。

不思議な感覚に心がふんわりとした。

『はじめまして、少年。僕は海瑛Aと言います。
君と妹さんを見る様にと、ある人に言われたためここに来ました』

にこりと笑みを浮かべて少年に微笑みかければ少年は丸めた目をぱちくりと動かした。

なんとも愛いその姿。きょとんとした表情が胸元をきゅんっとさせる。

彼から警戒の色は見てとれない。疑問を持った色だけが伺える。

『僕は鬼殺隊の一人です。本来なら鬼を斬る仕事をしていますが、
君の妹を人間に治すために力を貸してあげたいと思いまして』

疑問の色が途絶えない少年に向けてもう一度笑みを浮かべて答える。

そうすると少年の色から疑問が消え、太陽の様な眩しい優しさの色に包まれた。

「俺は竈門炭治郎です。妹は禰豆子といいます」

柔らかく元気のある顔で口に弧を描き、彼は言った。

色はびっくりするぐらいまっすぐで正直で、はっきり言ってちょっと眩しい。

と言っても抑えてくれと言って抑えられるものでもないので我慢するしかない。

『炭治郎くん。現段階で鬼を人間に治すことは無理です』

そうすっぱりと言い放つと炭治郎くんは少し悲しそうに眉を下げる。

変に期待させても可哀想だからはっきりと言ったけどその顔を見ると少し罪悪感が募る。

『鬼を人に治すといったことは完全にできるかはわかりません。誰も試していない。
何より鬼殺隊は鬼を殺すことが仕事です。禰豆子さんを連れて歩くということは鬼殺隊の皆様の一部を完全に敵に回すことにもつながります。
それでも、貴方は鬼殺隊を目指し、禰豆子さんを治すために戦うのですか？』

一つ、説いておきたいことがあった。

これで挫けてしまう様なのであれば鬼は連れていけない。

冨岡さんが認めた子なのだ。出来れば強くあってほしい。