三話 ページ4
提案してくれて大変申し訳ないのだが、実はその方法はもうすでに何回と試した。
それでも体は動いてはくれない。体に合わず何度も刃こぼれを起こし、刀鍛冶さんに申し訳がつかなくなったのでやめた。
どんなに体を動かして、別の呼吸を使ったとしても、やはり、操作しきれない海の呼吸が一番体にあった。
派生の多い、水の呼吸でもだ。僕の体には合わなかった。
口下手で有名な水柱、冨岡さんにも手取り足取り教えてもらったのだが、それでもだ。
正直、海と水、しょっぱいかそうではないかの違いくらいのものがここまで差を出すと自分でも信じられない。
『…努力はしてみます』
俯いたまま口から出た言葉。
努力したって、変わらないのならもうどうしようもないのに。
言葉を続けることも苦しくなって、その場から離れ、自分の屋敷へと帰るために足を動かした。
一生懸命に堪えた涙が、溢れ出してしまうその前に。
誰にも、みられる前に。逃げ出してしまおう。
「Aちゃーん!」
鼻の奥がつんとして、喉の奥が突然突っつかれたよな鈍い痛みが走る中、
後ろから愛らしい声が聞こえて、溢れかけた涙を引っ込めた。
『甘露寺さん…如何なさいましたか?』
振り返れば綺麗な桜と若葉色の髪を三つ編みにして揺らす少女が一人こちらに走ってくる。
ゲスメガネと評されたあの人のせいで胸元はがっぱりと開き、ひらひらとしたスカートが揺れている。
伊黒さんが彼女を思うあまり、縞々の長い靴下を与えているところを見たことがある。
彼は贈り物になった靴下の意味を知らないのだろう。
「あのね、最近新しく甘味処さんが出来たらしいの 一緒に行かない?」
先ほどまで強く睨まれていた僕を気遣ってのことだろうか。
お館様への報告の際はいつもきつい目線と言葉をもらうことが多い僕は会議の後、落ち込みやすい。
その後ろ背をちゃっかり見られていたのだろう。
『御気遣い、ありがとうございます。でも結構です。伊黒さんと行った方がきっと喜ばれますよ』
申し訳ないけれど、今は癒しよりこの悲しい気持ちに浸りたい。
自分を慰めてやりたいのだ。誰にも邪魔されず。
第三者なんかが入ってきたらどうせ正論か気遣いを言われるだけなんだから。
気遣いは苦手だし、正論だって欲しいわけじゃないもの。
「そう…ごめんなさい 呼び止めて」
『いいえ』
今日も思う。自分は最低だと。
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八雲(プロフ) - とても続きが気になります!!更新楽しみに待ってますね! (2019年5月27日 21時) (レス) id: ee1ccd9f95 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とりまろ。 | 作成日時:2019年5月5日 14時