【名探偵コナン】落としたそれが在る世界【降谷零】 (ページ8)

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先客のいなかった休憩室で買ってきた缶コーヒーのプルタブを上げた。

暫く書類を見続けていたせいで肩がだいぶ凝っている、片付いた案件が多いから追われはしないけど確認が多いな、降谷がいれば二分出来るがまあ仕方ない。

緑川の言い方だと伊達まで話はいっていそうだ。会った時に何を言われるか…塞がり始めた傷を見せれば小言も少しは減らせるかもしれない。

口寂しくなり飴か何か持っていなかったかとジャケットのポケットを探ると指先に当たった何か。先日の病院で担当医に渡されたものだった。そのまま入れっぱなしだったのか。

『Aくん、先月の検査結果が出たよ。必要ないかい？』

『結構です、問題ないのであれば』

『…無意味かとも思うが…一応これを。頭の隅にでも』

『何ですか』

『君ならすぐに覚えられるだろう、目安にしてくれ。まあ…それが出来れば苦労はないか』

『…お気遣い感謝致します』

私が頭を下げても眉を下げたままだった医師は、警察官になった頃から私の診察を担当してくれている方で、彼の言うように確かに無意味と言えば無意味だった。

医師としての牽制。

紙に書かれていた内容はすぐに頭に入ったし、ここまで詳しくはなくとも大体分かっている内容でもあった。何年経っても変わらない私の意識に変化を持たせたいのだと思う。ただ、覚えてはいても私がそれを任務中思い出すことはまずないだろう、それが出来るなら、私はきっとここにはいない。

小さく折った紙は内ポケットに入れた。見ることも思い出すこともしない、それでも医師の思いはお守りと同じだから。

気付いたら目の前で緑川が手を動かしていた。

「全然戻って来ないから様子見に来たんだけど…寝てたか？」

「いや…ごめん、そんなに時間経ってた？」

「まあな。」

「戻るか、ありがと」

緑川の肩を叩いて立ち上がる。手に持ったコーヒーは半分も減っていなかった。