【名探偵コナン】落としたそれが在る世界【降谷零】 (ページ25)

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・降谷視点

俺たちの傷が回復しても、退院して、仕事に復帰しても、Aの意識は戻らなかった。

多くの犠牲者を出したあの事件も犯人の逮捕、自供と共に事実上の解決を迎え、現場に居合わせた警察関係者も徐々に日常を取り戻し始めている。それを未だ取り戻せずにいる俺たちは、仕事の合間を縫ってAを見舞いにいく日々だ。少しずつではあるが傷が塞がり始め、手術直後の危険な状態は脱したものの意識が戻らない限りICUを出られることはないと告げられた。

「また事件だ、手が回らない、緑川は今、捜査に出てて…萩原が来られそうだって言ってたか…」

入室が許可されるようになってから日課のようにその日のことを話すようになっていた。包帯が取れた部分には痛々しい傷跡、きっとこれは消えないんだろう。Aは気にもしないんだろうが。病院の空気は独特であまりにもAとは不釣り合いな場所だ。長くいたらそのまま連れていかれそうな気さえする。

「あまり悠長にしてると、ご自慢の蹴りが鈍るぞ。始末書も溜まってる、俺たちはとっくに書き終えたから後はお前だけだな」

何か言えよ、文句くらいいくらだって聞いてやる。俺だってお前に山程言いたいことがある。
どうしてあんな無茶をした、制御をかけろってあれ程言ったのに、行き過ぎた正義はお前を殺すんだぞ、分かってるのか、痛みがないことがどれだけ危険なことなのか。説教だ、一週間かけたって足りない。もう二度と無茶はしないと言うまで離してやらない。

お前が警察官を志す、あんな正義感の持ち主でなかったなら言わなかった。痛みを持っていても自分を犠牲にしそうなお前が、走り出さずにはいられないことを知っていたから。

ここに来る度、問いかける。
どうしたら止められた？止めることなんて出来たのか？何を思っていたんだ、何故恐怖を持たない。Aが答えることはなく、思いが宙ぶらりんになるだけなのに、俺はそれを続ける

歪んだ視界、Aの手に落ちた滴、
さっさと戻ってこい、馬鹿野郎
ずっと夢だったって言ったのはお前だぞ、やっとなったんだろ、警察官に。こんなところで終わらせていいのか、いいわけないだろう、だったら早く起きろ。俺はあいつらみたいに優しくないから待っててなんかやらない、

それでもお前が隣にいないのは、自分の中の何かが失くなったような感覚なんだ。勝手に持っていくな、返せよ。渡した覚えなんてない。

AAがいて初めて俺は俺になるのだから。