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遠くの方から音が近付いているような不思議な感覚だった、少しずつ少しずつ大きくなりその音が自分のすぐ横にある機械からしているのだと気付く。規則正しい電子音、空気の通る音がどこかからしている、これか、手を伸ばそうとしたのに届かなかった。手が動かない、正しくは腕が。
慌てた顔をした看護師がバタバタと走り回り、聞こえますか、と医師が言った。聞こえてる、声は上手く出ないけれど聞こえてる。外せなかったマスクをほんの少しズラしてもらい口を動かした。
そこに流れる明らかな安堵の空気に当事者である私が恐らく一番置いていかれている。状況の把握は全く出来ていないが少し長めにここにいたのだろうか。
「走らないでください!静かに!」
「A!」
それから暫くして、駆け込んできたのは松田だった。一体どれだけ全力疾走してきたのかと聞きたくなるくらい汗だくで、
「分かるか、A…!俺が分かるか!?」
私が頷くと、瞳を揺らして握った手の力を強くした。ああ、どうしよう、松田が泣いている、
「よか、よかっ、た…!良かった…!」
言葉を詰まらせながら、何度も何度も良かったと言うその声は震えていた。漸く落ち着いた様子で椅子に座り直すと、携帯を見てまたポケットに戻す。
「黙って抜けてきたからどやされるな、まあ、別にいいだろ、一回くらい」
きっと怒りの連絡が入っているのだろう。しれっとそういうことするからなあ、こいつ。まだ一年目なのに。
私が目を覚ましたら自分に連絡をくれるように伝えていたという松田。聞けば、私が意識を失ってから三ヶ月も時間が経ったらしい。なるべく気丈に振舞っているのは分かるけれど、時々目元を拭ってる、心配かけたんだな、本当に。
「流石に戻るか、多分そろそろ来るだろうから」
「…っれ、が…?」
誰が?と言ったつもりだったのに言葉になっておらず、ひでえ声だな、と笑われた。
「お前に説教したくて堪らない奴だよ。あいつらの番号は教えらんねえから俺経由で連絡した」
それが誰のことを言っているのかすぐに分かった、怒られるのは覚悟しなければ、自分が悪いんだ。
「ま、つだ、は…おこ、んないの…?」
「ん?怒んないのかって?怒っていいのかよ」
「そ、じゃ…ないけど」
段々感覚が戻り始める喉、顔を綻ばせた松田は私の頬を撫でて言う、
「いいよ、今は。Aが戻ってきたんだから」
私まで泣きそうになって堪えようと口を結んだ時、大きな足音が病室に響いた。
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作者名:真琴 | 作成日時:2018年4月20日 23時