そばに居るから。 2 (ページ11)

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side涼太

ザワザワとした会場。

誰とも関わらず、最近ではろくにご飯すら食べていなかった俺。

あまりの人に、吐き気がする。

涼「はぁ、」

トイレに来ると、少しは静かになった。

その入口にあるベンチに腰掛け、カバンに入れて置いた参考書を取り出す。

覚えなきゃ、もうすぐ受験日なんだから。
落ちる、なんてことが許されるものか。

俺が合格しなければならないのは、偏差値が高く最難関とも言われる国公立高校。

そしてそこに学年1位で入ること。そうすれば、学費は全額免除される。

覚えなきゃ、覚えなきゃと思うほど、頭に入らない。

それに加えて、このオーディション。

また吐き気が襲ってくる。

涼「っく、はぁっ、はぁっ、んっ、」

ぎゅっと胸元を掴み、反対の手で口元を抑える。

何人かの人が、俺の前を通り過ぎてトイレに入る。

オーディション会場で、お互いがライバルで敵の世界。助けてくれる人なんて、いなくて当たり前。

顔をあげなくても、冷めた視線で見つめられていることくらい、嫌でもわかる。

結局はどこへ行っても同じなんだ。

場所が違うだけで、結局はみんな同じなんだ。

考えれば考えるほど、もう耐えられなくなる。

思わず床に膝をつき、ベンチに手をかけてなんとか倒れるまいと耐える。

？「ん、」

そんな声と共に、ぼやける視界にスポーツドリンクが映る。

人違いだ。

この人は、きっと他にいる知り合いに渡しているんだ。
顔が見えないせいで、間違えて俺に渡しているんだ。

だって俺に構う奴なんていないんだから。

俺は結局、ひとりぼっちなんだから。

？「…ぃ、おいっ！聞こえてんのか、」

ぶっきらぼうで、少し怒ったようなキツい口調。

その声が一瞬、あの男たちの声と重なる。

涼「っん、めん、なさっ、」

咄嗟に謝る。許してもらわないと。

謝らないと。

俺が悪いんだから。

？「いや、わりぃ…そこまでビビらすつもりはなかったんやけど、」

ひたすら謝っている俺を、少し戸惑ったような声が遮る。

申し訳なくなって、ゆっくりと顔をあげる。

涼「…ぁ」

そこに居たのは、かなりイカつい感じの男の人。

見た目はヤンキーみたいな感じで、俺とは正反対の人。
俺の人生で、絶対に関わることのない人種の男の人って感じ。

いつまでも水を受け取らず、ボーッと見つめる俺にしびれを切らしたのか、少し乱暴に水が俺の前に置かれた。

そして、振り返るとこなく彼は立ち去った。