後悔しないために ページ41
『…好きだっつってたろ、黄色』
…土方さんの、その言葉を思い出す。照れ臭そうにしながら、顔を逸らしながら、口ごもるような口調で彼はそう言った。私はそれを彼から渡された時、信じられないくらいに、嬉しかったのだ。それを、鮮明に覚えている。
…だから。
…晋助の手の中に握られているその黄色に向かって、土方さんがくれたリボンに向かって、私は右手をつき出した。指先が少しだけ、震えているような気がしたけれど、そんなことには構いもせず私は手を伸ばす。ここでこの手を引っ込めてしまったら、もうその暖かな色をしたリボンに触れられないような気がするのだ。それに、私は知っている。手を伸ばさなければ、触れたいものには触れられないことを。声に出さなければ届かないことを、私は知っている。痛いくらいに知っている。失いたくないなら、手を伸ばしていなければならないのだ。
…だから、後悔しないために、私は手を伸ばす。言葉を紡ぐ。
「返して」
「大事なものなの」
…私が発した声は、微かに震えて、掠れていた。まるで、小さな女の子が今にも泣き出してしまいそうな、そんな弱々しい声だった。切実な色を帯びて響いたその声は。私の声は、晋助の耳にどのように聞こえているのだろうか。真っ直ぐに彼を見据えるけれど、彼が私を見つめるその目に、変化はない。変わらず感情の見当たらない視線を、私に寄越している。ただただ、口元を歪ませたままで。彼の思考が、まるで分からない。
黄色いリボンが揺れる。悲しげに見えるのは、私の被害妄想からだろうか。
「…返してほしいのか」
「そう言ってるでしょ、何度も同じことを言わせないで」
…つき出した右手はそのままに、私はそう口にした。確かに意思を宿したような声で。今度こそ、震えたりなんかしない、真っ直ぐな一直線を描いたような声で、そう言った。
…土方さんが、私のために。私の言葉をちゃんと覚えていてくれて、私の好きな黄色で選んでくれたリボン。それには、彼の想いが詰め込まれているのだと、私は思う。例えば、彼の深い深い優しさが。例えば、彼の不器用な愛情が。それらがそこにはあるのだと、私は思っている。だからこそ、何より大事にしたいと思えたのだ。お守りにしようと、離さずに持っていようと。今度こそ、なくしてしまわないようにと。
…だから、それを奪われる訳にはいかないのだ。
…私は小さく息を吸い込んだ。次の言葉を音にするために。彼に伝えるために。
「…お願い」
…返して、と。私は同じ言葉をもう一度繰り返した。
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狗 - 長編小説って飽きやすいイメージがありますが、ピピコさんの小説は、全く飽きることがなく、むしろ読むたびに続きが読みたい!と思えます!最後までしっかりと読むつもりです! (2019年5月26日 10時) (レス) id: 0b828016c7 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - にんじんさん» にんじんさん!レス遅れてしまいごめんなさい!ありがとうございます!また子ちゃんは多分私の書く小説で出てくるのは初めてだと思われるので上手く書けているか不安でしたがそう言って頂けて安心です…!また子ちゃんだけではなく総督様にもご注目くだされば幸いです! (2018年2月14日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - また子ちゃんカワイイ! (2018年2月10日 12時) (レス) id: 5460fa1ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 鏡華さん!ありがとうございます!終わってほしくないと言って頂けて感激してます!書き手としてすごく嬉しいです!ずっと暖めていたお話なので展開をうまく開いていけるか不安ではありますが頑張らせて頂きます!高杉さんにそして土方さんの活躍をお楽しみに! (2018年2月9日 19時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
鏡華 - 終わってほしくないです!!高杉さんも関わってきて、続きが気になります!! (2018年2月9日 9時) (レス) id: a16b684fd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年1月27日 18時