そろそろ ページ5
そんなことを思いながらに、ゆったりと時間を過ごす。暖房がきいているため部屋は適度に暖かい。少し眠たくなってきてしまってくあぁ…と一つあくびを漏らしてしまう。涙で視界がぼやけて、拭ってはクリアに戻す。
その視線の先には、机の上におかれた一冊の小説があって、そのページの途中に挟まれているしおりに結ばれた、赤色が不意に目に入る。10年も前のものだから、色は少しだけ褪せてしまったけれど、それでもその赤は今まで、私を護ってくれた。今でも、私の中で特別な意味を持つ色だ。私を強くさせた色。私を前へ歩かせた色。私を、ここにたどり着かせた色のようなものだ。
(…不思議だ)
…あんなにも苦しみながらに歩いてきて、あんなにも憎んでいた幕府の関係者になって。それなのに今はどうだろう。迷うことなく帰ってこられるような、私の居場所になっている。道に迷うことはない。ここが私の居るべき場所なのだと思える場所。私を暖かく迎えてくれる場所。何があろうと、受け入れてくれる場所。
…私のことを待っていてくれる人が、ここには何人も居るのだということが、なんだか不思議だった。
少し前の私なら、理由もなくこんな所には来なかっただろうに。もし、何か別の未来があったのだと仮定したら。もしかしたら私はここに、テロリストとして爆弾を仕掛けていたかもしれないし、もしかしたら、指名手配犯として捕まって、牢屋の中に居たかもしれない。そこで、今は仲間である彼等を、睨みつけていたかもしれない。
…それでも、私が自分自身で選んで、泣きそうになりながら、足掻きながらに歩いてきた道で、私は彼等に出会えたのだ。それは多分、奇跡であるといってもいいように思える。あの過去がなかったのなら、私はここには居なかった。そう考えると、今までの苦しみがここに来るためのものだったのだと思える。
…彼に出会うためだったと。そう思える。
「…」
…そうして次に目に映したのは、土方さんがくれた黄色いリボンだった。
優しい思い出を象徴するような色。それに無意識のうちに手で触れて、手にとって。私は櫛で解かした髪にそれをくくりつける。いつものように、馴れた手付きで。土方さんがきっと死ぬほど恥ずかしい思いをしながら用意してくれた、彼からのプレゼントを。
「…よし」
でーきた、と。私は呟く。手鏡を手にとって、結んだ黄色を確認する。私のことを護っているようにそこにある黄色に、私は微笑みを浮かべて。
「…そろそろ、かな…」
…小さく小さく。そう口にした。
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狗 - 長編小説って飽きやすいイメージがありますが、ピピコさんの小説は、全く飽きることがなく、むしろ読むたびに続きが読みたい!と思えます!最後までしっかりと読むつもりです! (2019年5月26日 10時) (レス) id: 0b828016c7 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - にんじんさん» にんじんさん!レス遅れてしまいごめんなさい!ありがとうございます!また子ちゃんは多分私の書く小説で出てくるのは初めてだと思われるので上手く書けているか不安でしたがそう言って頂けて安心です…!また子ちゃんだけではなく総督様にもご注目くだされば幸いです! (2018年2月14日 23時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - また子ちゃんカワイイ! (2018年2月10日 12時) (レス) id: 5460fa1ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 鏡華さん!ありがとうございます!終わってほしくないと言って頂けて感激してます!書き手としてすごく嬉しいです!ずっと暖めていたお話なので展開をうまく開いていけるか不安ではありますが頑張らせて頂きます!高杉さんにそして土方さんの活躍をお楽しみに! (2018年2月9日 19時) (レス) id: 0ec549c041 (このIDを非表示/違反報告)
鏡華 - 終わってほしくないです!!高杉さんも関わってきて、続きが気になります!! (2018年2月9日 9時) (レス) id: a16b684fd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年1月27日 18時