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I won't forget you ページ37

───(ひと)は廻る。
───(かたな)は還る。



本当に此方で宜しかったのですか、と足元の管狐が問うてくる。
眼前には年季の入った本丸。曰く、前任の審神者が死去してから長らく放置されていたらしい。一度歴史修正主義者に襲撃された所為か、修復された跡こそあるが所々痛んでおり、もはやボロ屋敷と言った方がしっくりくる始末である。

そんな経緯があったからか、呪われた本丸などと根も葉もない噂が流れ人が寄り付かなくなってしまったらしい。
実際に初代審神者は襲撃の際に命を落としているし、本丸の刀剣から歴史修正者が現れた上、刀剣破壊が二名。しかもその内の一振は政府のデータベースにもない刀剣の付喪神だったのだから、そんな噂が流れるのも仕方ないといえば仕方ないのだろう。

閑話休題。
解体寸前だったこの本丸を自分が継ぐと政府に頼み込み、解体を中止して貰ったのだ。
政府はよく世話をしてくれた。
この本丸を継ぐ条件として提示したものもしっかり準備してくれたらしい。

何かありましたら政府にご連絡を、と言い残して管狐は姿をくらました。
再び眼前のボロ屋敷(ほんまる)と向き合い、管狐から渡されたものに目を落とす。


降り積もった雪に映える赤色の鞘の打刀。
オレが政府に出した条件は「初期刀にあたる刀剣」を選ぶ権利だ。

喚び掛ければ応えると教えてもらったので鞘に手を触れる。瞼を下ろす。息を吸う。


「起きて」


刹那、ぱっと桜の花弁が散った。
実体を持たぬ霊が肉体を得て地上へ降りて来るが如く、ふわりと薄桃の花弁が散る中一振(ひとり)の男士が顕現される。

「あー。川の下の子です。加州きよみ……つ……」

赤い瞳が大きく見開かれた。普段から飄々としていた彼が驚きを隠しきれていないのはなんだか珍しくて面白い。
今しがた顕現されたばかりの打刀───加州はうっそぉ?と呟き、オレと目を合わせてにやりと意味ありげに笑う。

「……まさか数ある分霊の中から俺を引き摺り下ろすなんてね。凄い執念じゃん」
「うっせ」

軽口を叩き合って、お互いからからと笑う。
なんだか懐かしい様な、初めての様な。
あの時とはいろいろ変わってしまったけど。

加州は練度が一に。
オレは正真正銘の人間に。

「ね、加州。帰ろうよ。オレらの本丸に」
「そーだね、ハル。みんなびっくりするんじゃない?」

勢いよく扉が滑る音と共に、オレたちの声が本丸中に響き回った。


「「ただいま!」」

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作者名:氷空 | 作成日時:2018年11月3日 21時

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