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第弐拾参話 ページ32

鈍い音が響く。金属同士が擦れる音。鮮やかに火花が散る。

悲鳴に似た咆哮をあげながらハルは刃を手に大太刀へ飛び掛った。戦略なんて何も無い、素人そのものの単純な攻撃。大太刀は易々と攻撃を受け流し、ハルの小さな体を地面に叩き付ける。

かはっ、と肺から空気が抜ける。全身の骨が軋んでいるのが解る。
既に満身創痍だ。否、瀕死という方が正しいか。傷の上から傷を作り、ぼろぼろで、血に濡れて、皮膚は裂け、走る激痛に奥歯を嚙み締めながらもハルは其の手の刃を握り締めた。


彼は人の子である。
たとえ半分だけ刀剣男士の血を引いていたとしても、彼は所詮偽者(ひと)なのだ。
刀の傷が直ろうと、肉体の傷が癒えるわけではない。


それでも彼は刃を振るい続ける。子供が癇癪を起こした様に。
何度も。何度も。何度も。

浅い斬撃を一太刀浴びせるまでに三度、地面に叩き付けられる。
痛い。苦しい。だが彼は攻撃を止めない。

今度は左腕が折れた。今度は肋骨が折れた。今度は奥歯が根元から折れた。
ずたぼろだ。ぼろ雑巾のようだ。もはや立つことはおろか、生きていることさえ不思議なくらいだ。


大和守が声を荒げた。無茶だ、と。
堀川が眼を背けた。見ていられない、と。
和泉守が叫んだ。死んじまうぞ、と。
歌仙が口を噤んだ。見届けねば、と。


手を出すな。血と砂の味が広がる口内から砕けた奥歯を吐き出しながらハルが吼える。
これはオレがやらなければならないことだ、と。


お世辞にも綺麗な戦いとは言えない。
両足が折れてもしがみつき、
両手が折れても刃を咥え、
噛み付いてでも彼は立ち上がる。



そうして何刻も経った頃。
大太刀の刃からびし、と嫌な音が響いたかと思うと、戦場いっぱいに響いたと錯覚するほどの甲高い音を立てて砕け散った。

きらきらと銀色の光が舞う中、歴史修正主義者の骸が輪郭を失い煙となり、霧散した瞬間。
支えを失った棒が倒れるようにハルが崩れ落ちる。受身なんて取れるはずも無く。からん、と音を立てて「春畝兼定」が地面を滑った。

やりやがった、と和泉守が言の葉を搾り出す。
本当に、唯の「人の子」が成し遂げたのだ。力を何も持たぬ人の子が。


「───(ハル)


歌仙らが駆け寄ってもハルは身動き一つしない。
浅い呼吸を繰り返すだけだったハルは自身の名を呼ばれ、重い瞼を押し上げる。
へらり、と笑って見せた。力の無い笑みだ。
だが彼が見せた初めての、心からの笑顔だった。


「……ねぇ、親父」

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作者名:氷空 | 作成日時:2018年11月3日 21時

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