第弐拾弐話 ページ31
彼の声に春畝はびくり、と肩を揺らす。
しんと静まり返った戦場になんで、という春畝の零した言の葉が木霊した。
風に掻き消えそうな小さな声でも今日はよく通る。
「何で……知って……」
掠れた声だった。震える声だった。
からん、と音を立てて「春畝兼定」が彼の足元に転がる。
驚愕で声も出ないといった様子の春畝を見やり、加州はげほげほと咳き込んでから無理に笑顔を作って彼へと向ける。
「───そっくりだよ、お前。母さんと」
春畝の動きが止まった。大粒の雫が頬を濡らしていた。
加州は微笑み、再び言の葉を吐く。
「髪の色も。その猫目もさ。初めて会った日、
もう話すのも辛いのだろう。短く、一言ずつ区切って、それでも言葉を紡ぎ続ける加州から春畝は思わず目を逸らす。
微かに聞こえる嗚咽は聞こえない振りを決め込んで。そっと瞼を下ろした。
「……嗚呼、でも、目の色は親父譲りかな。青空みたいで。綺麗な青だと思うよ、俺。現世で苦労、したんじゃない？」
苦労した、と涙に濡れた声が応える。
そっか。その声と共に大きく息を吐いた。指先が光の粒となって消えていくのが解る。
「性格は、親父に似てる。ちょっと強引で。偶に力づくで解決しようとするし。けど、どうしようもなく優しいところ。そっくり」
彼が、振り返る。背後に立つ刀剣達を一瞥する。
目が、合った。数秒の間互いに動かないまま、時間だけが過ぎていく。
「何でお前が、こんな……半分俺達みたいになってるかは知らないけど、ハルのこと気付いて、今度こそ守りたいって思った。前任の忘れ形見とか、贖罪とか、そんなの抜きにしても。まもらなきゃって思った」
涙でぐちゃぐちゃになった視界でも、加州が笑っているのはわかった。今まで見た中で最高の笑顔だと思った。
嗚呼、光に呑まれてゆく。あの蒼い空へ、還ってゆく。
「俺の分まで幸せになってよ」
それが彼の最期の言葉だった。
散っていく光を見ながら、ごめんと春畝は呟く。
その約束は、守れないかもしれないや。
足元の「春畝兼定」を拾い、其の鋒を大太刀へ向ける。
見ててよ、加州。母さん。親父。
此れが「
「やあやあ！遠からんものは音にも聴け、近くば寄って眼にも見よ！我こそは審神者と歌仙兼定が子、人の子と神の間が子！春畝兼定なり！」
───その刀剣、人の子につき。
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作者名：氷空 | 作成日時：2018年11月3日 21時
