第拾参話 ページ22
子供に聞かせるように淡々と、歌仙の口から紡がれる
此の本丸にかつて何があったのか。到底言葉にできない様な思いを込めて、今も尚此の本丸を縛る鎖の正体を初期刀は語る。
「───その後、彼は歴史修正を行った重罪人として刀解処分になった。所謂死刑の執行さ。本霊の消滅、其れは僕等にとって死を意味する。全てが終わり、僕等はぼろぼろの彼を引き取った。あの襲撃で喪ったものはあまりに少なく、大きかったよ」
今でも彼等は此の桜の下で眠っている。二人ならば寂しくないだろうと、此の庭からならば本丸が良く見えるだろうと。本丸の皆で生めたのだそうだ。
「人の子である主と違って、本霊の消滅したあの子が存在した理由を証明するものはもう無い。だから僕はあの部屋を片付けないで其の儘にしているのさ。僕等が忘れない様に。もしかしたら、いつか何食わぬ顔でひょっこり帰ってくるんじゃないかって淡い期待を抱きながらね」
そんな事が起きる筈も無いことなんて解り切った事なのに。歌仙は本当に其の担当が今に戻って来るのでは、と思っているのだろうか。
否、そんな事は無いのだろう。此れは贖罪だ。忘れないで、と彼の遺した言葉が呪いの様に歌仙を捉えているのかもしれない。
「……その、事件ってさ」
話を聞き終えた春畝が徐に口を開く。突然突き付けられた真実に困惑しているのだろうか。言の葉を吐こうとし、それを止め、逡巡する様にぱくぱくと口を開いた。或いは躊躇いだろうか。暫くして意を決したのか口を固く結んだ後に、問う。
「何年前の話?」
「十二、三年前の話だよ。何かあるのかい?」
「……いや、気になっただけ」
表面上は冷静を装い春畝は震える声を嚙み殺した。
彼の中でひとつの仮説が立つ。不躾だが、もう一つ問わねばなるまい。
「前任審神者の子供、だっけ。その子どうなったの」
「───現世へ。せめて、あの子だけでも人の子らしい生を送ってもらいたかったんだ。僕の自己満足だろうけど」
「……そっか。あのさ、その子の名前って、」
「嗚呼。あの子の名は───」
彼の口から名が紡がれた瞬間、俄かに本丸が騒ぎ出した。
曰く、第一部隊の帰城。曰く、加州清光が重傷。
手入れ部屋の準備を、と指示を飛ばし慌てた様子で歌仙が立ち上がって駆け出す。
言葉を喪った春畝が唖然として立ち尽くし、その場をぼんやりと眺めていた。
「───そういうこと、だったんだ……」
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作者名:氷空 | 作成日時:2018年11月3日 21時