その刀剣、───につき。 (ページ7)

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第×夢ページ7

「時間だ８９番。準備をしなさい」

自動ドアが立てる機械音と共にこの世で一番嫌いな奴の声が滑り込む。
ああ、嫌だ。その言葉を呑み込み、内容を頭に叩き込んでいた書類から目を逸らし顔を上げた。

そいつはいつも見下ろしてくる。座っている今はもちろん、立っていてもこちらより背が高いのだから見下ろされるのは当たり前なわけだけど。
実験動物(モルモット)を見るように見下ろしてくるそいつの目が大嫌いだった。

「今日は実戦検証だ。私が開発した最新のプログラム技術を駆使し本来の戦闘に限りなく近い状況を再現している。人間一人真面(まとも)に殺せんポンコツの貴様でも此れならば本物(・・)に近いデータが取れるだろうな」

聞いてもいないのにペラペラと説明を始めるのを８割右から左へ聞き流しながら、ぼうっと眺める。

話し合えた途端、はっ、とこいつは鼻で笑った。バカにするような、あるいは軽蔑するような笑いじゃない。どちらかと言えば自信と自慢が含まれている。自分の才能に向けられたものだと思う。
自分が禁忌を侵している事も知らずに。バカな奴。

「全く、問題が山積みだ……貴様とソレ(・・)の繋がりも一方的……いや、逆方向でなかっただけマシか。憑代は此れ一つだが霊の替えは幾らでもきくからな。しかも此奴は何も殺せずソレが持つだろう記憶も無いに等しい。私の研究に間違いは無い筈だ。現に失敗続きだった実験が遂に成功した。しかし霊力も真面に持たん此奴が何故此れ程の適性を示したのか……」

冷えた目線にも全く気付かずにブツブツと独り呟く様子を一瞥する。こういう風に考え出すとしばらくこいつは動こうとしない。そういった部分はマトモな研究者らしいと感心できるけど嫌いなものは嫌いだ。大っ嫌いだ。

さっきまで見ていた資料に再び目線を落とす。50以上の顔と名前、それの持つ歴史なんかも全て暗記しなければいけない。
あの研究者に言われたからやっているっていうのは間違いないわけだけど、どちらかと言えば本物(・・)にバレてはいけないという「使命感」に突き動かされている。

いつ頃解放されるのだろうか。
窓がない実験室(ここ)では、見上げても灰色の天井とオレンジに近い色を放つ裸電球一つくらいしか見ることができない。一年近く青空を見上げていなかった。
こんなのモルモットと一緒だ。

ああ、でも。

もしも、
もしも来世が有るのならば。
オレは××になりたい。

なりたかった、なぁ……