[3]surprising ページ5
同棲開始から二月程経ったある日のこと。ふぇっくしょん！と豪快なくしゃみが部屋中に響き渡る。音源となった彼女は、衝撃に耐えられなかったのか机に額をしたたかに打ち付けていた。
「…ごめん、うるさくて」
「大丈夫か？」
「ヘーキ。しっかし冬だねぇ」
「寒くなってきたな」
二人とも仕事のない休日。しかし二人してPCとにらめっこだ。俺はネットサーフィンだし、彼女は趣味の3Dモデリング。ぽつぽつ会話を交わしていると、いつの間にか昼時だった。
「…12時半だな」
「マ？何かテキトーに食べよ」
彼女は、そう得意ではないにしろ料理はある程度できる方だった。しかし、友人のゆきさんは一言。
「Aの筋力なめちゃダメっすよ、切れない野菜あるんで。茹でる前の大根とか」
流石に当時の俺も硬直した。が、今はなんとかなっているらしい。「チャーハンで良い？」とキッチンから声がかけられた。多少の具材とチャーハンの素くらいは残っていたらしい。
「ああ、頼む」
「ちょっとの焦げは見逃してね」
「そのくらいは気にしないよ」
「おっけ…うーわ野菜キャベツしか無い」
露骨に嫌そうな呻き声が聞こえる。キャベツが苦手─他の野菜もだが─な彼女にとっては苦しいものなんだろう。御愁傷様。それでも彼女は調理を始めていた。多分、俺の分の方がキャベツが多い。
「でけたよぉ〜」
「わかった、今行く」
キッチンの近くに仮設置した折り畳み式のテーブルに、皿がふたつ、マグカップもふたつ。向かい合うように配置された椅子の片方に、エプロンを掛けてから彼女が座る。
「スマイルの方コーヒーだけど」
「知ってる。お前はどうせ水だしな」
「残念、アクエリです」
「なんだよそれ」
他愛ない会話をしつつ俺も椅子に腰掛け、チャーハンの出来を確認する。俺より上手いから必要無いが。確認が終わってすぐに目の前の彼女と目を合わせる。両手をぱちんと合わせ、口を揃え、食前の挨拶。
『いただきます』
「んまい」
「なら良かった」
味の感想を端的に伝え、そこからは二人とも黙々と食べ進める。具材は不揃いなものもあるが、まぁ味には何ら関係無い。料理に関しては細かい所が多いのが意外だった。
「ごちそうさま」
「ん、皿だけあっちに」
「了解」
先に食べ終わり、食器を水に浸けておく。この時間は、食べるのが遅く少食な彼女をこっそり観察できるチャンスタイムだ。
「…むり」
「腹いっぱいか？」
「盛りすぎた、自爆した」
「なら食うわ」
「は？え、ハァ？」
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作者名：さらさ@ボールペンじゃないよ | 作成日時：2020年12月21日 0時
