【шτ】3月12日のワンルーム【sm】 (ページ4)

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[2]humility ページ4

「本当、狭いとこだけど良かったのか？」
「全然大丈夫。生かしてもらう的な感じだから文句言えないでしょ？」
「確かにそうだな」
新築とは言えないが、そこまで古い訳でもない狭いアパートの一室で、二人の男女が荷ほどきをしている。パッと見恋人同士─一応そうであるが─に見えるのはしょうがないだろう。
元からあったシングルベッドの反対側に、異なるデザインのベッドがもうひとつ配置される。間には大きめの組み立てデスク。大ぶりなPCセットが二対乗せられ、片方にはマイクが付属していた。俺のだが。
「恋人みたいだなぁ」
「…一応そうだろ」
「あっ」
「いや忘れるなよ」
ガタガタと引き出しを開け、衣服を仕舞う彼女が硬直する。そしてそのまま黙ってしまった。一通り片付け終えた辺りで、ぐるりと此方へ体ごと向け、彼女は漸く口を開いた。
「あのさぁスマさんよぉ」
「どうした」
「同棲までは良いんだけどさ、恋人っていう関係まで作る必要あったの？」
「それはまぁ、交際関係に無い男女が一つ屋根の下だなんて変だと思われるだろ」
世間一般的には、と付け足す。ぱちくりと瞬きをした彼女は、なるほどねぇ、なんてぼやいて見せた。しかしまた口をつぐみ、黙々と段ボール箱を開けては荷物を引っ張り出していく。俺も【ぬいぐるみ・ベッドの上】と油性マジックで記された箱を開け、指示通り丁寧に配置した。女子はぬいぐるみが好きなものなのだろうか、箱からはパンダや梟などのぬいぐるみがごろごろと出てきた。梟を好むとは不思議な奴だな、と物思いに耽っていた俺の背中にふと質問が投げ掛けられる。
「そーいやスマさんってさあ、私に恋心あるの？」
「え"」
「え"って何だよえ"って」
突然すぎて変な声が出た。彼女だって数日前まで友人だった異性から秘密裏に好意を向けられているなんて思いもしなかっただろうに、ああ何故突然。返す言葉が思い付かず固まったままの俺の方に、彼女はぐるりと回り込み、にへらぁと口角だけを吊り上げてみせた。
「んまぁでも、あっても一時の気の迷い的な何かっしょ？俺のこと好きになる奴なんて余程の物好きしかいねーし」
「…ほう」
「ありゃ、違った？」
「いや、そこは個人の見解ってやつだろう」
成程分かった。つまり彼女は、自己肯定感が低いといわれる部類だろう。片手に乗せたままだった梟をベッドに移したところでその結論に至った。謙遜しなくていいぞ、なんて言いたくもなる。
そう思う俺はやはり、"余程の物好き"なのだろう。