35ページ:祝事 ページ35
その名前を今世で初めて聞いた時、私はとっても空っぽな名前だな、と思った。
何年もの記憶があるのに、それら全ては無いものだと言われているようで錯覚しそうになった。
ただ、零という名前は嫌いではなかった。理由は色々あるが、まあ要は個人的に気に入っているのだ。
だから呼んでもらいたかった。例えば身近な人に。
…保護者が微妙な顔をするのは想定内だったが、それでも私の今世の名前なので、一回は呼んでほしかったのだ。
「お昼ご飯、そろそろ食べる?」
保護者は照れ臭そうにそう言うので、私はコクリと頷いた。ソファから降りて保護者と向かい側の席によじ登り座ると、保護者は台所の方へと向かった。
「おじさん、満足?」
私はソファに座っているおじさんに目を向けて言い放つと、目を見開き驚くような表情から一転、満足そうな笑みを浮かべた。
「…揶揄ってた。いい性格してる」
私が皮肉を込めてジト目で言うと、動じずにおじさんは口を開いた。
「君に言われるだなんて光栄だな」
おじさんは冗談をものともしない余裕そうな顔で、微笑んだ。
「それに君だってノリノリだったじゃないか。溜息を吐いていた割には」
「…そう?」
「そうだよ。本当に、ギリギリで気付けたけど…」
おじさんは一呼吸置き、
「笑ってたよ、君」
穏やかな笑顔で、そう言った。
…そうか…そうなのか。
「…そっか」
私はおじさんから目を逸らすように、前を向いた。
少し待っているとお昼ご飯が運ばれてきたので、私達は食べることにした。
「ほら、ケーキ。おじさんが買ってきてくれたものだよ」
「光お兄さんの間違いだろ。というか俺ら同い年だぞ」
いつもより格段に美味しく感じた保護者の手作り料理を食べ、しばし満足していると電気を消され、火のついたろうそくが刺してあるケーキが運ばれてきた。
二人の会話に耳も貸さずに見ていると誕生日の歌を歌われて、消していいよと言われたので息を吹きかけて消す。
「「お誕生日おめでとう」」
電気が点けられると、二人の温かい表情を見た。
…おじさんの隣にある異常な危険度も一緒に見えたが、耐性がついてしまったのか然程驚きはしなかった。
それよりも照れ臭くなり、二人から顔を隠しながら頰を綻ばせた。
…本当に、嬉しかった。
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卵かけご飯の醤油 - みつるさん» ああ、確かに盛者必衰の方が多分内容的に合ってますね。私、てっきり諸行無常も盛者必衰も同じような意味かと思ってて…今ウィキ先生で調べてみました。どうやら意味合いが違うようです…わざわざご報告、ありがとうございます。修正しますね。 (2019年5月29日 19時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
みつる - 49ページなんですけど…諸行無常ってなんとも言えないという意味だと思います。多分盛者必衰の間違いかと…間違ってなかったらすみません(>_<) (2019年5月29日 18時) (レス) id: d6e134e20f (このIDを非表示/違反報告)
卵かけご飯の醤油 - すすぎさん» そうなんですか…もしよろしければその私の小説と似ているという小説の題名を教えてくれませんか?出来ればその小説と話が被らないようにプロットを書き直すつもりなので… (2019年5月26日 12時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
すすぎ - あまりにも似てるものがあったので..... (2019年5月26日 11時) (レス) id: 28118ed8c0 (このIDを非表示/違反報告)
卵かけご飯の醤油 - ありがとうございます。まさか読みやすいというコメントを貰うとは思っていませんでした…嬉しいです。これからも更新頑張ります。 (2019年5月25日 14時) (レス) id: ecf6ee3b9e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:卵かけご飯の醤油 | 作成日時:2019年5月17日 15時