横顔 ページ8
本当に見事な桜。
東京の商業地にこんな場所があったなんて…
「素敵な場所…誰もいないし、本当に特別席だね」
『去年マスターが教えてくれた。俺も初めてみた時は度肝を抜かれたよ』
「ふふっ、そうだったんだ」
二人また、静かになった。
時折夜風に揺れる垂れ枝と、風と語らうように揺れ舞い落ちる花びらがあまりにも荘厳で美しくて、ここにいられることに喜びを感じるほど。
こんな風に自然の美しさに心打たれる時、抱えている悩みや不安が、とてもつまらないものに思える。
ありのまま、
そのまんまの自分を受け入れられるような、
満たされた気持ちになる。
こんな気持ちになるの、久しぶり……
やだ、泣きそう……
そっと目尻を拭って隣を見たら、
『……泣き虫だね』
意地悪な言葉とは裏腹な、柔らかくて優しい笑みを浮かべる隆弘がいた。
そんな彼の瞳も、わずかに濡れているように見える。
「隆弘も」
『……いや、まぁ。……そうだな』
「ふふっ、本当に、感動しちゃう」
隆弘は頷いて、また桜を見上げる。
かつて何度も、
何度も見てきた横顔。
まっすぐに前を見つめる、
凛々しくて、儚い横顔。
大好きだった。
『みおと別れてから、音楽と仕事に没頭してきたんだ……』
隆弘は桜を見つめたまま、これまでのことを話し始めた。
私も同じように桜の木を見つめ、その声に耳を傾けた。
『音楽とエンターテインメント、ファンのことだけを考えて走ってきた』
「うん……」
『そしてドームツアーをやれるとこまできた』
「すごいね……」
『ありがとう。』
隆弘の言葉が途切れ、街の喧騒だけが聞こえる。
私は過去に想いを馳せる。
隆弘と一緒にいたあの頃に。
「隆弘は夢を叶えてるね。“たくさんの人を自分の歌と音楽で幸せにしたい”っていう夢を」
『……もしそうなら、俺の歌や音楽が誰かをほんの一瞬でも幸せにできてるなら、嬉しい。でも……』
隆弘は言いかけてまた、言葉が途切れる。
その時一瞬吹いた強い風が桜の古木を大きく揺らし、私の体と心までも震えさせた。
そして次に聞こえてきた隆弘の声は、なんとも表現し難い低く重い声。
『でもそれと引きかえに、……たっくさんのことを、犠牲にしてきた』
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さら(プロフ) - chr916さん» お返事遅くなりました。何度も読み返してくださって嬉しいです。続きを更新しました。コメントありがとうございました。(^^) (2022年10月11日 4時) (
レス) id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» ご無沙汰しています。続きを少し更新しました。いつも感想をありがとうございます。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) @page49 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
chr916(プロフ) - 何度も読み返すくらい大好きです！続きが早く読みたいです🙇♀️ (2022年10月2日 19時) (レス) id: 2b8ccb9b49 (このIDを非表示/違反報告)
ao.ao - 更新ありがとうございます！胸キュン❤️いいなぁ〰と想像膨らませて読ませて頂きました。続き早く読みたいー待ってますから〜 (2022年7月16日 1時) (レス) @page45 id: 80a471aa5a (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^)今後、2人はどうなるのでしょうか。いつも読んでくださって感謝です。 (2022年7月12日 10時) (レス) @page43 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さら | 作成日時：2021年5月15日 11時
