特別席 ページ7
隆弘に手を引かれ、連れられるがまま進む先は……
「えっ、入っていいの？」
なぜかマスターが立つカウンター内。
隆弘の返事は無く、代わりにマスターの優しい笑顔と頷き。
状況を飲み込めないまま次は暖簾をくぐり、
カウンター奥の厨房へ。
そこでは若い従業員の男の子が食器を洗っていて、
『ぇえっ⁉︎』
と素直な反応。
そりゃそうだよね……
と、私は心の中で呟く。
隆弘はそんな彼に、『仕事中にごめんね、失礼しますね』と声をかけてさらに進む。
隆弘に取られた手はぎゅっと強く握られ早歩きに。
そしてあっという間に厨房の裏口から店の外へ出た。
思ったより外の空気は冷えていて、思わず肩をすぼめた。
『これ羽織ってて』
繋いでいた手は離れ、
隆弘の優しい声と同時に心地よい温かさと甘く懐かしい香りに包まれる。
でも戸惑う間もなく隆弘の歩みは進み、外階段を登っていく。
「あの、ジャケット返すよ……。私はだいじょうぶ、隆弘が風邪ひいちゃう」
ツアー中なのに……。
隆弘の後ろ姿にそう言ってみても返事は無い。
両肩にかかる彼の黒革のジャケットの重みと、そこから放たれる甘い香りが私の胸をざわつかせる。
「……どこ、行くの？」
『着いてきて』
今度は返事があったけど、質問の答えではない。
こっちを振り返りもせずにスタスタと外階段を登っていく隆弘の後ろ姿に再び不安が募る。
『着いたよ、特別席。』
階段を登りきってやっと隆弘は止まり、私もその隣に立った。
恐る恐る彼の視線の先を追うと、
「わぁ、……桜」
連れられた場所は2階建ての店舗ビルの屋上。
そこから見えるのは、視界を埋め尽くすほどの満開の桜、桜、桜……。
「……すごい……！」
これ以上の言葉を失うほど、見事な桜。
屋上からのライトに照らされて、夜空にそれはそれは美しく映える。
ゆっくりと近づけば、その大きさと勢いに圧倒される。
隣のビルとの間にどっしりと根を張り、太い幹と東西南北に張られた枝が樹勢を物語る。
屋上に立っていても、見上げてその満開の花々を堪能できるほどの巨木。
『樹齢50年を超えてるらしいよ』
隣に並ぶ隆弘はそう言って、屋上まで張り出した枝に触れる。
私も薄ピンクの桜の花にそっと触れた。
「きれい……」
『うん…』
「一本の木がこんなに見事な花を咲かせるんだね」
『すげぇよなぁ』
「すごいね……」
それきりお互い無言のまま、夜空に咲く桜に見入っていた。
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さら(プロフ) - chr916さん» お返事遅くなりました。何度も読み返してくださって嬉しいです。続きを更新しました。コメントありがとうございました。(^^) (2022年10月11日 4時) (
レス) id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» ご無沙汰しています。続きを少し更新しました。いつも感想をありがとうございます。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) @page49 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
chr916(プロフ) - 何度も読み返すくらい大好きです！続きが早く読みたいです🙇♀️ (2022年10月2日 19時) (レス) id: 2b8ccb9b49 (このIDを非表示/違反報告)
ao.ao - 更新ありがとうございます！胸キュン❤️いいなぁ〰と想像膨らませて読ませて頂きました。続き早く読みたいー待ってますから〜 (2022年7月16日 1時) (レス) @page45 id: 80a471aa5a (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^)今後、2人はどうなるのでしょうか。いつも読んでくださって感謝です。 (2022年7月12日 10時) (レス) @page43 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さら | 作成日時：2021年5月15日 11時
