君と 9

……while you're in the world ページ49

守屋先生から、エルトン・ジョンの“Your Song”をアンコール曲にすると聞いた時は嬉しかった。
大好きな曲だから。



でもまさか、大事な歌い出しのソロパートを指名されるなんて。



『普段通りに歌って。気負わず、いつものみおちゃんで』



練習の時から、先生の指示はたったそれだけだった。



だから本番もその通りに歌ったら、本当に気持ちよくて、楽しかった。
会場のお客さんと一緒に、ただただ音楽を楽しみ、愛する。



幸せで、感極まって涙が出た。



そしてこの幸せな瞬間に思い出すのは、大好きな人の優しい笑顔と交わした言葉。



“歌や音楽って、やっぱすごいよな。気持ちを繋いで、心を通わせることができる”


‘うん……そうだね’


“みおと一緒にいると、特にそう感じる”


‘ねぇ…、今この瞬間に、私達のように音楽で気持ちを通わせてる人達、いるかな…’


“いると思う。きっといる。俺は、そのために歌ってる”


‘うん、そうだね。本当に……’



何年も前の隆弘との会話。
忘れないと、強く思った。
そして彼は私をまっすぐ見つめて言ったの。



“1年後も、俺はみおとこうしていたい。3年後もその先も、俺の隣で笑ってほしい。一緒に歌ってほしい”


‘私も、隆弘の隣にいたい。1年後も、その先も’



私も彼を見つめて、気持ちを伝えたあの日。
今も、気持ちは変わっていない。



たくさん傷ついて、傷つけて、迷って辿り着いた気持ちは、あの日と同じだった。



“あなたがここにいてくれるだけで、私の人生はこんなにも素晴らしい”



そう、それだけでいい。
あなたの側にいられるだけで。
それが私の幸せ。



『みお、ありがとう』



えっ……



隆弘……？



隆弘の声が聞こえた気がして、そんなわけないのに、客席に目を凝らす。



“Your Song”を全員で歌い終え、拍手と総立ちで讃えてくれる会場のお客様。
その中に、会場奥の扉から出て行く人影…



「た、隆弘…？」



……似てる。
でも、違うかもしれない。



忙しい人だし……来るわけない。



でも、もしかしたら……



早く、早く。



行ってしまう。
早く行かなきゃ。



幕が下りるのを、こんなにも長く感じたことない。

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