大事にしたい気持ち ページ37
『別れた⁉︎』
隣の奈緒の裏返った声が狭い店内に響き渡ったから、私は慌てて「静かにして!」と言った。
すると今度は私の向かい側でドンッと鈍い音がして、『どうしてですか⁉︎』と後輩紗和ちゃんの声。
その紗和ちゃんが握るジョッキの周りにビールが散っている。
紗和ちゃんは、よほど勢いよくジョッキをテーブルに置いたらしい。
紗和ちゃんの隣、同じく後輩の夏姫ちゃんが『ちょっと紗和、汚い』と、おしぼりでテーブル上の液体を拭いている。
私も一緒にテーブルを拭いていると今度は夏姫ちゃんが『もっといい男がいるからだよ』と、彼女らしい回答。
『みおさんを夏姫と一緒にするなっ!』
『一緒だよ。じゃなきゃ結婚目前で別れたりしないよ』
『いやっ、きっとみおさんの場合は深い理由がある!』
『ないって〜』
『いや、ある。ね、みおさん?』
紗和ちゃんが真剣な表情でこっちを見るから、深いかどうかはともかく、理由をどこまで話すべきか迷う。
夏姫ちゃんに関しては、私のことに大して興味も無さそうだし。
「いろいろあって……、私が前の人を忘れられなかったの……」
『えっ、あの浮気されてたって言ってた人ですか⁉︎』
「うん…」
紗和ちゃんは眉をひそめ、不満げに私を見る。
紗和ちゃんのこの反応は当然で、胸が痛む。
『みおさんの彼、豊田さん、素敵な人だったじゃないですか。みおさんのこと大事にしてるって、伝わってきましたよ。なのになんで結婚直前で……』
『紗和、みおだってそんなこと十分わかってるよ。その上での決断でしょ』
『そうでしょうけど……』
奈緒が私の気持ちを代弁してくれた時、頼んだ料理が運ばれてきて場の空気が和んだ。
今日は週末華の金曜日。
みんなで飲むことになり、そこで初めて太一と別れたことを伝えた。
紗和ちゃんはこの報告に不満げだったけど、飲んでいるうちに普段の様子に戻った。
太一と別れて数週間経った。
喪失感は癒され始めているけど、罪悪感はまだ拭えない。
でも後悔はしないって決めた。
ずっとずっと自分の胸の奥に押し込んできた想いを、大事にしてあげたいと思うから。
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さら(プロフ) - chr916さん» お返事遅くなりました。何度も読み返してくださって嬉しいです。続きを更新しました。コメントありがとうございました。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» ご無沙汰しています。続きを少し更新しました。いつも感想をありがとうございます。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) @page49 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
chr916(プロフ) - 何度も読み返すくらい大好きです!続きが早く読みたいです🙇♀️ (2022年10月2日 19時) (レス) id: 2b8ccb9b49 (このIDを非表示/違反報告)
ao.ao - 更新ありがとうございます!胸キュン❤️いいなぁ〰と想像膨らませて読ませて頂きました。続き早く読みたいー待ってますから〜 (2022年7月16日 1時) (レス) @page45 id: 80a471aa5a (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^)今後、2人はどうなるのでしょうか。いつも読んでくださって感謝です。 (2022年7月12日 10時) (レス) @page43 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さら | 作成日時:2021年5月15日 11時