君と 9

力強い瞳 ページ4

『ふっ、気ぃつかってくれてる？』


「だって…、人が多いから」


『ありがと』


「……何飲んでるの？」


『ウーロン茶。ツアー中だからね』


「じゃぁ私もウーロン茶で…」


『そんなに気ぃつかうなよ。好きなの飲んで。それにここ料理も美味いから、みおは絶対お酒飲みたくなるよ』



夕飯まだでしょ？
と、隆弘は手書きのお品書きをすぅっとこっちへ滑らせる。



「そんな、人を呑んべぇみたいに言わないでよ…」


『はははっ！ ごめんごめん、そういう意味じゃなくて。この前のお礼させて』


「お礼って…」


『あの時、みおが側にいてくれたおかげで気が楽になったよ。救われた。……ありがとう』


「隆弘……」



柔らかな笑みを湛えてまっすぐに私を見る隆弘の瞳はとても力強くて、なんだかほっとした。



あの時は、もう見ていられないほど隆弘は落ち込んでいたから。
あの姿を思い出すだけで胸が痛むし、隆弘が消えてしまうんじゃないかって、怖くなる。



でも今は、力が宿るその瞳から、彼の‘もう大丈夫’が伝わってくる。



「よかった……。よかったね」


『ありがとうな、みお』



安心した途端に、私の視界はうっすらと滲む。
それに気づかれないように、グラスビールとマスターおすすめの料理を何品か注文した。



「お言葉に甘えて、いただきます」



グラスを掲げて隆弘を見ると、彼は満足げに口角を上げ、私の腕時計を静かにカウンターに置いた。



時計を受け取ってお礼を伝えてから、左手首に着けた。
途端に思い出すのは、あの夜の隆弘とのやり取りと太一についた嘘。



「……」


『……みお？ どうした？ オードブル食べないの？』



ハッとして隣を見ると、隆弘が不思議そうに私を伺っていた。



「…た、食べる」


『ふっ、遠慮しないでたくさん食べて』


「隆弘もね。この前思ったけど、隆弘は痩せすぎ」



オードブルの盛り合わせのサーモンマリネを小皿に取り、隆弘にも差し出す。
隆弘はそれをゆっくりと受けとると、『今はツアー中だからさ…』と。



「忙しいのはわかるけど、隆弘の方こそちゃんといろんなもの食べて。冷蔵庫の中が納豆と水だらけって、心配。」

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