君と 9

幸せになって(side N) ページ27

ドームツアー最終日が無事に終わった。
精神も体も、喉も限界だった。。



でもやり遂げた。
やり切った。



もう思い残すことない。
ってのは嘘だけど、とにかく公演に穴を空けることなくできた。



それが1番ほっとしてる。



楽屋に来た江田と、この後の挨拶や撤収作業の予定を確認していると、江田のスマホが鳴った。
画面を見た江田がちらっと俺を伺うから「出ていいよ」と促す。



『もしもし、香織さん？ ……よかった、来てくれたんですね』



香織？
え、香織来てたのか？
佑一郎も？



江田と目が合い、口パクで香織？と確認すると江田は頷いた。



『西島さん？ はい、隣にいますよ、代わりますか？』



江田のスマホを受け取り



「香織？ 来てくれたんだ。佑一郎と一緒？ 香澄と赤ちゃんは？ よかったら楽屋くる？ うちの両親も今日来てて、」



いつもの癖で早口で喋り続けていると、スマホの向こう側から信じられない言葉が聞こえた。



『みお。みおと来た』


「え、」


『江田さんにゲストパスもらって。みおも一緒にって頼まれたんだ』



咄嗟に江田に視線を送ると、にこりと完璧なスマイルを返された。
どうやら本当らしい。



「そ、か。それで、みおは……？」



一気に心臓が早鐘を打つ。
ただでさえ公演直後で興奮してるのに、みおが来てくれたという現実を知りさらに血流が速くなるような感覚だ。



俺はまだこんなにも、みおが好きだ。



『……帰ったよ』


「………え、あ、…そっか」



興奮が一瞬にして冷めていく。
俺は一体何を期待していたんだ。



『ねぇ、ニッシー。みおね、ニッシーの歌聴いて、泣いてたの』


「泣いてた……、なんで」


『それは、みおしかわからない。ただ、ひとつだけ言っておくけど、みお、豊田さんと結婚するって』


「え……」


『ニッシー、本当にいいの？』


「……」


『みお結婚しちゃうよ？ いいの？』


「……香織、俺たちはもう終わったんだよ。みおは俺じゃなくて豊田さんを選んだ」



あぁもう。
こんなこと、自分で言うのがまだこんなに辛いなんて。



わかってた。
いつかこんな日が来ること。



「香織、みおに伝えて。……幸せになってって」


『え、ちょっと待って、ニッシー！』



スマホを江田に返し楽屋を出れば、通路はスタッフが忙しなく行き交う。



俺はその空気に紛れた。

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