君と 9

絆 ページ25

それからまたダンスナンバーが数曲続き、ダンサーとバンドのセッションパフォーマンスへ。
さらにファンが熱狂し、会場が盛り上がっていく。



『あっ、大ちゃーん！』


『カズキさんっ、ショウヘイさんっ、かっこいー』



香織はダンサーさんの名前を叫びながら夢中。



隆弘も何かやるのだろうか…
でもあの体で一体どこまで……



そう思った時に、一際高い歓声が上がった。



『わーーーー！！！ Nissy！！！！！』



盛り上がりは最高潮に達し、香織も隣で絶叫する。
一方、私は固唾をのんで見守ることしかできなかった。



『はぁ〜、ニッシーの意地だね。気迫を感じたよ。“何がなんでも決めてやる”ってね』


「……腰、大丈夫かな……」


『キツいだろうね。でも見てよあのニッシーの笑顔。“やった！”って子どもみたい』



香織が耳元でそう言って、ステージ上の大画面に目配せをする。
確かにそこには、屈託なく笑い、楽しそうに、そして気持ちよさそうに歌って踊る隆弘がいた。









その後のMC中、隆弘は何事も無いようにファンとの語らいを楽しんでいた。



『ちょっと飲むね……、っいてて…』



隆弘が水分補給のためにステージ上のタンブラーに手を伸ばした時、マイクが拾った声。
右手で腰を摩っている。



「痛いの痛いの、飛んでいけ……」



何もできないのがもどかしくて、1人呟いて祈る。
するとステージ上の隆弘も同じように自身におまじないを唱えた。



『“痛いの痛いの飛んでけ〜”
……って自分で言ってみた。これって不思議と効くよね。みんなも大事な人にやってあげて。絶対効くから』



会場があったかい笑い声に包まれ、ペンライトが揺れる。
私は胸がきゅっと締め付けられていくのを実感して、苦しくなって俯く。
もう、ステージ上の隆弘を見ることができない。



嬉しいと、思ってしまった。
隆弘との確かな絆を感じて、泣きたくなるほどに。



こんな気持ち忘れなきゃいけないのに。
“最後”なんだから……
私は隆弘とは別の道を歩くって、決めたんだから。




後方の席からはファンの密やかな会話が聞こえてきた。


『なんか今のさ、にっしーも大事な人にしてあげたり、してもらったことがあるって感じだよね。彼女かなぁ…』

『えー？子どもの頃の話でしょ？ お母さんじゃない？』

『そうかなぁ……、私がにっしーの彼女だったらいつでもしてあげるのに。“痛いの痛いの飛んでけー”って』

『あははっ！ だよねっ』

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