君と 9

見届けて ページ23

「声帯…？ 嘘……」


『本当。今朝江田さんから電話があった。ドクターストップがかかってるって。手術は避けられないだろうって』


「そんなっ、 隆弘は大丈夫なの？ 歌えるの？」



腰の状態だって深刻なのにそれに加えて声帯まで……



胸の裏側でざわざわと音がする。
手が震える。
最悪の事態が頭を過ぎる。



『みお、』


「どうしていつも隆弘ばっかりっ……」


『みお、落ち着いて』


「でもっ、」


『みお、ニッシーは大丈夫だよ。ニッシーは絶対に最後までやり抜く。みおの方がよく知ってるでしょ？』



私の震える右手が香織の両手で包まれる。
隣を向くと『ね？』と香織が微笑むから、募る不安と焦りが和らぐ。



『みお、行こう？ ニッシーが全身全霊で創り上げるライブを、一度でいいから観てあげて？お願い……』


「……」


『みおが豊田さんと一緒に生きていくって決めたなら、もう何も言わない。さっきは勝手なこと言ってごめん。でも、最後にニッシーの夢を見届けてほしい』



“最後に”……



こんなに必死に訴える香織を見たのは、初めてかもしれない。



「太一に、連絡させて……」



ちゃんと太一に伝えてから会場へ向かいたいと思って電話をしたけれど、仕事中なのか繋がらなかった。



‘お仕事中にごめんなさい。
これから香織と一緒にNissyのドーム公演を観に行きます。


急な連絡でごめんなさい。
心配しないで。
必ず帰ります。’

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