歌い続ける(side N) ページ15
「…あ、そうだ江田、忘れないうちにこれ返す」
テーブル上に置かれた自分のバッグから取り出したパスカードを、俺の前に立つ江田に手渡した。
受け取った江田は表情をさらに曇らせる。
『え、これ……橘さんに渡すはずの東京公演のゲストパス……』
「渡せなかった。もう俺とは会わないって、言われちゃったからさ」
『そんな……』
「ごめんな。無理言って最終日の席をおさえてもらったのに」
『……』
「はははっ、もうさ、そんな憐れんだ目で見るなよ。…昼メシ、取ってくるわ」
さっきから俺に向けられている江田の深刻な視線に耐えられず、俺はソファから立ち上がった。
『大事なツアー中に失恋なんて……西島さんのメンタルが心配過ぎます…』
別室のケータリングを取りに楽屋を出ようとすると、背後から冗談か本気かわからない江田の言葉が聞こえてきた。
「失恋て……。江田、日高みたいなこと言うな。ていうか俺もういい大人だし。何の影響も無いんですけど。リハ見てたらわかるでしょ」
『そうでしょうか。‘ドンレミ’、は一瞬詰まったようですけど』
「……昼、取ってくる」
江田の指摘に一瞬止まった。
でも何も答えず楽屋を出た。
さすが江田だ。
誰も気づかないことをよく見てるし、聴いてるな。
歌い出しでほんの一瞬詰まっただけなのに。
“Don’t let me go”
あの曲は別にみおを想って作ったわけじゃない。
そもそも俺は自分の心情を歌詞にするタイプじゃない。
けど思いがけず、あの歌詞が自分と重なってしまった。
それにあの演出変更だって、これまでならあまり気にしたことのない視点だった。
ただ、
大事な人が大切にしてることを、自分も大切にしたくなったんだ。
ケータリングの食事を持って楽屋へ戻ると江田が待っていた。
テーブルに食事を置いて、まだ心配そうな江田に言った。
「江田、みおは俺が歌い続けることを願ってくれてる。だから大丈夫だよ」
そう。
みおは俺と願いを重ねてくれていた。
“隆弘の歌が、音楽が、たくさんの人に届きますように”
歌で、音楽で人を幸せにしたいっていう
俺の願いと夢に、
寄り添ってくれていた。
2人一緒にいた頃と変わらずに、
今もなお……。
それだけで、俺はなんて幸せなんだろうって思える。
十分過ぎるほどの愛情を、みおからもらった。
だから、
俺はこれからも歌い続けるんだ。
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さら(プロフ) - chr916さん» お返事遅くなりました。何度も読み返してくださって嬉しいです。続きを更新しました。コメントありがとうございました。(^^) (2022年10月11日 4時) (
レス) id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» ご無沙汰しています。続きを少し更新しました。いつも感想をありがとうございます。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) @page49 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
chr916(プロフ) - 何度も読み返すくらい大好きです！続きが早く読みたいです🙇♀️ (2022年10月2日 19時) (レス) id: 2b8ccb9b49 (このIDを非表示/違反報告)
ao.ao - 更新ありがとうございます！胸キュン❤️いいなぁ〰と想像膨らませて読ませて頂きました。続き早く読みたいー待ってますから〜 (2022年7月16日 1時) (レス) @page45 id: 80a471aa5a (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^)今後、2人はどうなるのでしょうか。いつも読んでくださって感謝です。 (2022年7月12日 10時) (レス) @page43 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さら | 作成日時：2021年5月15日 11時
