最後のおまじない(side N) ページ13
どのくらい痛みに耐えただろうか。
桜の花びらが優雅に舞い落ちる中、
俺は狭間で揺れていた。
みおに自分の気持ちを受け止めてほしい
という想いと、
みおをこれ以上苦しませたくない
という想い。
答えを出せない。
出したくない。
あぁどうか、このまま時を止めてくれ。
このまま……
「……」
『……』
やがてみおは静かに息を吐いて、ゆっくりと目を開けた。
そして再び桜を見上げる。
それは落ち着いていて凛とした横顔で、
俺はつい目を奪われてしまう。
なんて、なんて優しい目で見るんだろう、と……
『彼は……豊田さんは、この桜のようにどっしりとした揺るぎない、大きな愛情をくれる人なの』
「……うん……」
『ずっと、ずっとずっと……、私のことを想ってくれた』
「うん……」
知ってるよ……
豊田さんは俺とみおが一緒にいる頃から、ずっと君を想ってた。
『この素敵な桜を見て、太一の気持ちにちゃんと応えたいって、思った。もう太一にこれ以上隠し事したくない。嘘をつきたくないって……』
「ん……」
俺はもう頷くことで精一杯だ。
みおの答えはもう、出ている。
『隆弘とは、もう会わない』
「……」
みおははっきりと言葉にして、俺の目を見ているのに、
俺は喉がつかえて声が出せず、頷いて返事をすることしかできない。
『隆弘、2年前のこと話してくれてありがとう。これで前に進めるよ』
俺がやっと顔を上げた時には、みおはうっすらと瞳を滲ませていた。
でもすぐにそれを拭う。
「みお、」
せっかく大事な気持ちに気づいたのに、伝えることもできないなんて。
『隆弘、もうお互い前に進もう。ね?』
みおは笑顔でそう言うと、俺のジャケットをそっと肩から外して俺に差し出す。『これもありがとう。もう大丈夫』と。
……いやだ。
俺は大丈夫じゃない。
みおに、そばにいてほしい。
俺の隣にいてほしい。
ずっと。
『隆弘……』
ジャケットを受け取ることができないまま拳を握る俺に、みおは柔らかな笑みを向けてくれる。
その瞳は泣きたくなるほど、優しい。
そしてふわりと漂う恋しい香りと共に、俺の肩にジャケットが掛けられる。
『隆弘の歌が、音楽が、たくさんの人に届きますように』
滲んでいく視界の中で、みおは俺に最高の笑顔とおまじないをくれた。
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さら(プロフ) - chr916さん» お返事遅くなりました。何度も読み返してくださって嬉しいです。続きを更新しました。コメントありがとうございました。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» ご無沙汰しています。続きを少し更新しました。いつも感想をありがとうございます。(^^) (2022年10月11日 4時) (レス) @page49 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
chr916(プロフ) - 何度も読み返すくらい大好きです!続きが早く読みたいです🙇♀️ (2022年10月2日 19時) (レス) id: 2b8ccb9b49 (このIDを非表示/違反報告)
ao.ao - 更新ありがとうございます!胸キュン❤️いいなぁ〰と想像膨らませて読ませて頂きました。続き早く読みたいー待ってますから〜 (2022年7月16日 1時) (レス) @page45 id: 80a471aa5a (このIDを非表示/違反報告)
さら(プロフ) - ao.aoさん» コメントありがとうございます。嬉しいです(^^)今後、2人はどうなるのでしょうか。いつも読んでくださって感謝です。 (2022年7月12日 10時) (レス) @page43 id: 9f1002156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さら | 作成日時:2021年5月15日 11時