君と (ページ9)

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リクエストと涙ページ9

西島君はとにかく明るくて、昔のイメージそのまま。
人を喜ばせたり、楽しませることが好きなんだろうな。

すっごく素敵な歌声を聴かせてくれたと思ったら、急に変顔して笑わせてくるし。

おかげでとても楽しい時間を過ごしている。

『ね、橘さんに歌、リクエストしていい？』

「え…無理だよ、もうプロの歌手の前で歌うのは」

『え〜いいじゃん。橘さんの歌もういっかい聴きたい。今度は俺、おとなしく聴いてるからさ』

そんな、子犬のような目で懇願されちゃうと…

どうしよう。

『今度はバラードがいいな』

西島君は小首をかしげて、ちゃっかりとそんなリクエスト。

西島君て人の扱いがうまいかも。
あんなふうに可愛くお願いされたら、断れないよ。

バラードで好きな歌…これかな。

“When she loved me”

某映画、カウボーイのおもちゃとその仲間達の冒険物語の挿入歌。
歌詞は英語だけど、シンプルで歌いやすい。

歌詞の切なさと心地よいメロディが心に響く。

胸がギュッとしめつけられる、大切な人を想う歌。

隣の西島君を見ると、目を閉じて体を揺らして聴いてくれている。

えっ

涙!?

うそでしょ。
どうしたの？

西島君の頬を涙がつたっていく。

歌うのをやめた私に

『もっと歌って、橘さん。俺、聴きたい』

「でも…」

『いいから、そのまま聴かせて』

静かにそう言って、また目を閉じた西島君。

一体どうしたの？
何があったの？

私が最後のフレーズを歌い曲が終わると、しばしの沈黙が訪れた。