本当の気持ち(side N) ページ34
遠くに汽笛の音。
晩秋の山下公園は、澄んだ空気と潮風の香りに満ちている。
しばらく泣いていたみお。
ぽつり、ぽつりと話しだした。
『結婚が決まっている人と、関係を持っているの』
「うん」
遠くを見つめているみお。
その瞳に涙はもう無い。
『原田主任のこと、ずっと好きだった。だから求められると嬉しくて。都合の良い女と思われていることはわかってる。でも一緒にいられることが嬉しいの』
「うん」
『何度もやめようって、終わりにしたいって思ったけど、どうしてもできなくて。本当にバカ』
そう言って、みおは下を向いた。
「うん、バカだね。それ位、そいつのことが好きってことでしょ」
俺がそう言うと、みおは首を横に振った。
『違う。自分の気持ちしか考えていないだけ。彼の婚約者の気持ちも考えられない、自分勝手な想い』
俺は黙って続きを待った。
『結婚が決まって、幸せそうに笑う香織の笑顔が彼の婚約者と重なって、罪悪感でいっぱいで…
香織を傷つけてるってわかっていても、避けてたの』
みおの頬を再び涙がつたう。
『ごめんなさい。こんな私本当に嫌い。私は泣く資格も無いの。彼の婚約者や香織の気持ちを考えたら…』
とめどなく、みおの瞳から溢れる涙。
みおは、男に対する想いを話していても泣くことは無かった。
でも香織と男の婚約者への気持ちを吐露した途端に、涙した。
それが、みおが1番大事にしたいことじゃないのか?
「みお…」
俺はそっと、みおの頭を撫でた。
308人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さら | 作成日時:2018年10月29日 0時