竜胆の花束を貴方に(煉獄杏寿郎)2

猗窩座2 ページ19

目の前で繰り広げられる死闘にAは動けずに居た。
(どうしようどうしようどうしよう……)
助けたい、しかし己が出たことで逆に杏寿郎が不利になってしまったら……そう思うと、Aはクナイの入った小さな鞄に手をかけたまま動けずに居た。
(どうしたら……！)
ギュッとキツく瞳を閉じたAの脳裏に、須磨の言葉が蘇る。
(“度胸と覚悟です！天元様を死なせないって覚悟を持つことです！”)
ハッ！としてAは、猗窩座と戦う杏寿郎へと視線を向け、ギュッと拳を握るとクナイを取り出す。
『A……？』
「しっ！猗窩座だって杏寿郎さんにいっぱいいっぱいになってるはずだから、不意に動けば気づかれないはずだから！」
そう言うとAはクナイを握り直すと、じっとその戦いを見つめる。

(猗窩座が杏寿郎さんに技を出す時にクナイを投げるのは私には無理だ……だとしたら話してる途中……)
Aはそう考え戦いを見ていると、猗窩座が杏寿郎に語りかけるように話し始める。
ちらりと杏寿郎へと視線を向ければ、大きな傷はないが体力を消耗している姿が目に入る。
Aは隙を伺いながら猗窩座へとクナイを投げた。
「っ！？」
『気づかないほど愚かだと思うか？』
Aの投げたクナイを掴むと、猗窩座はこちらへ視線すら向けずに問いかける。
『こんな……！？ｸﾞｩ…な、んだ』
クナイを掴む衝撃で割れた小瓶から出た血液が、杏寿郎の与えた斬撃に染み込んでいく。
まるで毒が身体を蝕むように、猗窩座が徐々に苦悶の表情をうかべる。
(今なら……！)
弱っている猗窩座の姿を見たAは、クナイをもう一本取り出し投げる体勢をとる。
『動くな！！待機命令！！』
額に青筋を浮かべた杏寿郎の怒号が響き、Aは身体を硬くした。

『蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ』
そこへ治療を粗方終えたしのぶが、畳み込むように藤の花の毒を猗窩座へ撃ち込む。
『ｸﾞｩ……！！』
猗窩座は更に苦しげな声を上げるが、まだ致命傷には至らないようで、膝を着くことも体勢を崩すこともなかった。
『俺は俺の責務を全うする！！ここにいる者は誰も死なせない！！！炎の呼吸 玖ノ型 煉獄』
凄まじい技により、一瞬にして土埃が起こる。
「……あっ！」
Aがゆっくり瞳を開くと、杏寿郎が猗窩座の首を落とす姿が視界に入った。
「勝っ……た」
ぽつりとAが呟くと同時に、呼吸を整えた杏寿郎がこちらへと視線を向ける。
その瞳の色に幾分か怒りの色が見え、Aは息を飲んだ。

吐露→←猗窩座

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