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「いらっしゃい。おや、名探偵じゃないか。随分と、久しぶりだね。組合のことはもう片付いたのかい?それとも、お菓子が無くなってもらいに来たのかい?まあ、どちらでも私は大歓迎だがね」
ふくろうは、会わなかった日数を感じさせないほど、いつも通り笑って迎えた。
対して乱歩は、つらつらと言葉を並べたてるふくろうの声を聴きながら、考え続けた日数分、ふくろうをじっと見つめ、どう返すべきか考えあぐねていた。
いつも通りそこにいるのに、いつかいなくなるという事実が、ひたすらに胸を締め付ける。
気づいたことを告げたら、彼女はなんて言うだろう。
きっと、帰る方法について聞いてくる。
教えなければいい。
でも、彼女は帰る方法を自分で見つけてしまう。
足りない情報は何。
それは、自分にも話せないことなのだろうか。
それを聞いて、ふくろうは答えてくれるだろうか。
『わからない』
「どうしたんだい?」
ふくろうの声にハッとする。
見つめているのに見ていなかった瞳が、ふくろうが不思議そうな顔で立ち上がる姿を映す。
そして乱歩のそばまで歩み寄り、見つめる瞳を見つめ返す。
「……君は、ずっと前から知ってたの」
悩んだ挙句、こぼれ出たのはそんな言葉だった。
彼女は、自分が異能力者でないことを知っている。
知りながら黙っていて、帰りたいのも我慢していた。
なのに、いつも笑って迎えてくれる。
ずっと、どんな気持ちでいたんだろう。
「そうか」
ふくろうがぽつりと言葉をこぼす。
少しだけ嬉しそうな言葉に、ズキッと胸が痛む。
それが見て取れたのか、ふくろうは少しだけ首をかしげて、困ったように眉を下げて言った。
「奥で話そうか。きっと長くなる」
ふくろうは乱歩の後ろの扉を開けて、『close』の札を出した。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時