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乱歩は、古びた扉の前で思考していた。
それは、何度も考えたことであったし、そこで出る答えはいつも一緒だった。
彼女の行動が気になりだしたのはいつだったか。
彼女の望みに気づいたのはいつだったか。
その望みを叶えるわけにはいかないと思ったのはいつだったか。
自分の中にある感情を認めたくないと思ったのはいつだったか。
良いところを見せたいと、事件をいつもより早く解決させようと思い始めたのはいつだったか。
『気づかないふり』をしてきたことを、否が応でも突き付けられ、自分を守る優しい嘘に気づかざるを得なかった。
溢れ出した『気づかないふり』をしてきたことの情報量は膨大で、その中には彼女のことも含まれていた。
まるで、手のひらの上で踊らされているような感覚だった。
13年。
彼女が、あの古書堂に閉じ込められ、暇つぶしのために本を読み、知識を身につけていった年数。
なおかつ、彼女の未来予測ともいえる、『失った記憶の気配』。
二つが組み合わさることで出来上がる膨大な情報と知識は、乱歩の頭脳をも一時的に上回るだろう。
そんな推理が見えて、乱歩は思わずため息をついた。
気づいてなお、知らん顔をする感情を押しのけて、乱歩は何度も推理した。
その中でいくら行動を変えようと、手法を変えようと、彼女は望みを叶えてしまう。
この扉の向こうで、今日も本を読んでいる彼女は、きっと自分の前からいなくなる。
けれど、それは、情報の足りない中で出した答えだ。
まだ、何かを彼女は隠している。
それさえわかれば、きっと、彼女の望みを叶えずにいられる方法が見つかるはずだ。
意を決して、乱歩は古びた扉を押し開け、彼女のお気に入りのドアベルを響き渡らせた。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時