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『行ったら君、死ぬよ』
イヤホンから聞こえてきた声に、少女はハッとして体を起こした。
どうやら寝てしまっていたらしい。
伸びをしながら右手でスマホの画面をタップする。
『ああ、知って』
セリフが中途半端なところで途切れた。
「……無理……ほんっと無理……織田作……何で行っちゃうんだよぉ……」
嘆くように言葉を吐き出し、机に突っ伏す。
「頼むから生きてよ……」
何度言ったか分からない言葉。
このシーンを、この話を、この物語を、この言葉を、この姿を見る度に、思い出す度に、口にし、思う言葉。
好きだからこそ生きて欲しいが、彼の生き様に惚れたから故に、死にゆく姿すら彼らしく、また、愛おしと思ってしまう。
「はぁ……ほんと、罪深い男……」
静かになった部屋で、右腕を枕にしながら、左手に握られたシャーペンを見つめる。
随分と長い夢を見ていたような気がした。
けれど、アニメは聞いていた続きを依然として流していたし、時計も少し前に見た時よりも数分進んでいる程度だった。
そして何より、ほんの一瞬でも見ていた夢の内容を覚えていなかった。
とても楽しくて、悲しくて、幸せな夢だったような気がする。
「……厨二病か、私は」
1人で勝手に突っ込んで、体を起こす。
目の前には半分終わった数学の宿題。
左手に持ったままになっていたシャーペンを置き、息抜きにとキャスター付きの椅子を転がし本棚へと寄る。
迷わず『文豪ストレイドッグス』の1巻を手に取り、パラパラとめくりながら流し読みをする。
「文ストの世界に、行ってみたいなぁ」
眠る前にも呟いたその言葉をまた、ぽつりと零した。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時