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ページ50

カラン、カラン、と鳴るベルの音に少女が顔を上げる。


「いら……なんだ、君たちか」


うんざりしたような、不機嫌な声が出る。


「以前から頼まれていた品が入手できた」

「ようやくか」


少女は立ち上がり、カウンターから出てその本を受け取った。

『下巻』と書かれた、どうも懐かしく、それでいて胸を締め付けるような寂しさを感じるそれを眺める。

「上巻と中巻もあるがどうする?」

「入荷願いを出したのは下巻のみだったが、そうだな、貰っておこう。彼の人を虜にした小説がどんなものか知りたいからな」


ようやく入荷された3冊の本を、少女は夢中で読んだ。

幸い客は来ず、カウンターの奥で、冷めきった紅茶を傍らに読み続けた。

上巻と、中巻だけ。下巻は、彼に聞いてから。

そう思って読み始めたはずだった。

気づけば、あっという間に二冊を読み終え、下巻に手を伸ばしていた。

怒られれば謝ろう。きっと、彼は許してくれる。そう、言い訳して。

1度目を読み終えて直ぐに、2度目を読んだ。

その本は、とても素晴らしかった。

だが、一つだけ欠点があった。

下巻の、最後に近い数ページが切り取られていたのだ。

殺し屋が殺しを辞めた理由を話すシーンの直前。その後がこの小説において最も重要なシーンだということは、考えずともわかった。


「これでは、入荷したということにはならないね」


ぽつりと呟いて、少女はページをめくった。

2度目を読み終えた時、既に刻は、青年と決めた閉店時間をとうに過ぎていた。

『Close』の札を出すために本を閉じ、外に出た。

いつの間にか雨が降っていた。

何かを悲しむかのように。

つぅ……と、静かに涙が頬を伝う。

流れる涙に、指先で触れて、濡れたそれを見つめる。


「何故だろうな」


廂からどんよりと暗く、黒く沈む空を見上げる。

流れ零れる涙とは裏腹に、頭はやけに冷静で、まるで、自分の中にいる知らない誰かが泣いているようだった。

あの日、夕焼けと青空の両方を持ち合わせた青年と出会ったときのように。

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設定タグ:文スト , 文豪ストレイドッグス , 江戸川乱歩   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/  
作成日時:2020年11月30日 15時

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