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「君こそ、仕事は大丈夫なのかい?さっき天気予報を見たら、今日はこのまま雨だそうだよ。傘はあるし、貸せるがどうする?」
「いや、大丈夫だ」
今日は休みだとは、言えなかった。
少女に会うために来ている途中に、雨に降られたとは。
依頼した本は、既に手に入れている。
ずっと昔、喫茶店で声をかけてきた老人が、最後の数ページを切り取ったものを置いていった。
だが、そのことを、あの少女は知らない。
この古書堂への依頼を取り消さないのは、それを口実に会いに来るためだ。
その口実が、今だけは出てこなかった。
「なら良かった。ゆっくりできるな」
そう云って、自分の隣を叩く。
『ここに座れ』。
青年の中で、期待する自分を、冷静な自分が、呆れたように見つめていた。
少女が示すように隣に座れば、肩に重みが乗る。
少女を見れば、本は閉じられローテーブルの上に置かれていた。
「……眠いのか?」
緊張を悟らせないように絞り出した声に、少女がわずかに笑みを漏らした。
「そうだね。少し」
そう云って、さらに体重をかけてくる。
「死なないでくれよ」
唐突に、少女が云う。
「……死ぬ予定は無い」
少女を、悲しませたくなくて、そんな事を云った。
何を今更。心の中で、自嘲気味に鼻で笑う。
ポートマフィアの最下級構成員だということは、随分昔に打ち明けた。
いつ死ぬかもわからない世界に身を置いていて、そして出会った頃は、フリーで暗殺を請け負っていたことも。
全て、少女に話し、少女はそのすべてを知ったうえで、青年に心を許している。
それはまるで『少年になら殺されてもいい』と思っているようで、少年は、少し複雑な気持ちではあったが。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時