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出会って数年。『繋がり』がないという方が、おかしいのではないかと少年は開き直ることにした。
第一、少年は少女に本の入荷を頼んでいる。これを『繋がり』と呼ばずして何と呼ぶ。
少年は、小さくため息をついた。
聞こえた少女は、少しだけ楽しそうに笑った。
『してやったり』。そんな言葉が聞こえてきそうだった。
この少女には、考えていることが筒抜けなのではと、時折疑うときがあるが、それはそれとしてだ。
店の名前。
案が無いわけではなかった。けれど、それを人につけるには、いささか思うところがあった。、自分が……。少年は、少女から、視線を所狭しと並んだ本へ向ける。
「ここは、お前にとっての拠り所であると言ったな。そして、この世界を生き抜くための『砦』でもあると」
「ああ、言った。ここしか、私の居場所はない。ここでしか、私は生きられない。とても狭い砦であり、『檻』だよ」
「そうか……なら」
そう言いながら、少年は、しばらく前に読んだ本の背表紙を撫でる。
「ミネルヴァの梟……か?」
背表紙の言葉を少女が口に出す。
知恵の神であるミネルヴァの使いの梟は、知恵の象徴であると言われる。
この古書堂にはあらゆる時代の、あらゆる分野の、あらゆる知識が並んでいる。
それを表現するのであれば、これ以上に合う言葉はないだろう。
少女はそう思う。
「いや」
だが、少年が否定した。
「『梟の止まり木』……は、どうだ?」
少年が、少女を見下ろしながら問う。
少女も少年を見上げ、それから笑った。
いつも見ている笑顔は偽物だったのだと、その時少年は気づいた。
「とてもすてきだ」
満面の、心からの笑みを浮かべ、少女は言う。
「なら、いい……」
ふい、と、少年は顔を背けた。
「さあ、素敵な名前がこの店についたから、お祝いでもしようか。咖喱でね」
そう言って、少女は住居へ戻っていった。
1人残された少年は、夕日で顔を赤く染めながら胸元で手をギュっと握り締めた。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時