白紙の文学少女 (ページ5)

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・ページ5

『どんな？』と聞く前に、女性が答える。

「少々、使い方が厄介だが汎用性の高い異能だよ。君や名探偵の彼の異能力には劣るがな」

「そうなんですか。えーっと、お名前とか職業とかお伺いしても？」

「名前は」

女性の言葉はそこで途切れた。
パクパクと口を動かしたあと『ああ』と納得した顔で、首に巻いたストールの中をごそごそといじる。
だが、彼女に音は戻らず、諦めたのか肩にかけていたカバンから小さなメモ帳を取り出した。

『すまなんだ。どうも咽喉マイクの電池が切れたらしい。ここからは筆談で頼む』

メモを呼んだ敦は頷く。

「構いませんが、その、……声が出ないんですか？」

『いや、出るには出るんだが、私の異能は「声」に関係していてね。自衛のためさ』

「そうですか」

どうやら、この女性は異能力のせいで厄介な目にあったことがあるようだ。
身に覚えがある敦は、女性に同情した。

「それで、その異能力はどんなものなん」

「ここにいたか」

敦が聞こうとしたそこへ、箕浦と乱歩がやって来た。

「乱歩さん！事件は解決したんですか？」

乱歩のもとへ敦が駆け寄る。

「当たり前じゃないか」

２人の後ろで手錠を解かれた女性が、３人へメモを向ける。

『私も晴れて釈放というわけかい』

「何？さっきまで普通にしゃべってたじゃん」

乱歩のもっともな質問に、女性は苦笑いを浮かべてメモを数ページめくる。
敦に説明した際に書いたページに『いや』を消し、『声は』と書き加えて、箕浦と乱歩に見せる。

「『声』に関係する異能ねえ」

『諸々気になっていることの説明は後日、ちゃんとさせてくれないか？筆談だと何かと不便だ』

「それでいいよ。僕も面倒だし」

『では、連絡先を教えておこう』

そう云って、女性はカバンから１枚の名刺サイズの紙を取り出した。

『古書堂梟の止まり木』

それは、ショップカードのようだった。
表には店名と、簡易の地図。
そして裏に店の電話番号とメールアドレスを書き入れた。

「名前は？」

カードを受け取った乱歩が聞く。
そう、表にも裏にも、彼女の名前は書いていなかった。
女性は、困ったように笑って、メモに書いた。

『忘れたから、好きに呼んでくれ』