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とても古びたドアと、古びた看板。
『古書堂』と書かれているからわかるものの、何もなければ恐らくただの空き家か、民家だと思うだろう。
聞いたこともない、地図にも載っていない店。
けれど、いける古本屋はすべて訪ね切ってしまったので、私はこの店に入るしかないのだ。
そう思いながら、赤髪の少年はドアを押し開ける。
店内は無人で、けれど、日が差し込んでいるおかげでとても明るかった。
「いらっしゃいませ」
そう云って、箒と塵取りを持った小さな少女が目の前に現れた。
とても小柄な少女だった。
少年は『私よりも年下か?店番だろうか』と思うが、次の瞬間、そんな思考も吹き飛んだ。
目の前の少女が、少年の顔を見るなり大きく目を見開き、ぼろぼろと泣き始めたのだ。
「あ……ああ、すまなんだ。どうも涙が止まらない」
少女は手に持っていたものを床に落としながら、慌てたように涙をぬぐう。
「何か、あったのか?」
「いや、何も無い。何も無いんだがどうも、貴方を見ると胸の奥から込み上げるものがあって、胸が締め付けられるんだ。安堵と悲しみと喜びが混ざったような複雑な気持ちだよ」
涙だけが勝手に流れているようで、その言葉はスムーズだった。
見た目にそぐわない話し方に、ちぐはぐな感覚だった。
「理解できない」
「私もだ」
少年がつぶやけば、少女も困ったように頷いた。
いつまでも涙は止まらず、途中で差し出したハンカチの全体が湿るころ、ようやく少女が顔を上げた。
「いや、すまない。迷惑をかけたね。店主なのに情けない」
目じりを真っ赤にしながら、少女は小さく微笑んだ。
「店主なのか?」
少年は微々たる変化で驚く。
「ああ。つい最近、店を開いたばかりだがね。どうぞ、ゆっくり店内を見てくれ。私は奥で借りてしまったハンカチを洗ってくるよ」
そういうなり、落としたままになっていた箒と塵取りを拾うと、返事も聞かずにさっさとカウンターの奥の扉へ消えて行ってしまった。
ポツンと残された少年は、止めようと伸ばした手を降ろす。
幼いながらに店を始めたとはいえ、不用心すぎるのでは?と、いささか心配になる。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時