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かち、こち、と、振り子が動く音だけが古書堂内に響いていた。
太宰は、大量に並んだ本の背表紙を見ながら、レジカウンターの向こうで、今日も今日とて本を読みふける店主を盗み見ていた。
カウンターと体が平行になるように置かれた、丁度良い柔らかさと硬さを併せ持つクッションの敷かれたロッキングチェアに、ゆったりと座り、一心不乱に小説を読みふけっている。
時折思い出したかのようにページがめくられ、時折置物ではないことを示すように、紅茶かクッキーを口に運ぶ。
細かく動く眼球は、ただただ文字を追い、店内の客なんぞ、文字通り、眼中には無いようだった。
チラリと見えた表紙には『上巻』と書かれている。
ただ、どんな話の、誰が書いた小説の『上巻』なのかは、わからなかった。
「何か、聞きたいことでもあるのかい?太宰くん」
不意に声がかけられる。
ふくろうが顔を上げ、カウンターに肘をついた。
まるで、困った生徒を見つめる教師のような表情だった。
気づかれているとは思わなかった太宰は目を見開き、ふくろうは目を細めて云った。
「本を読んでいても、店に客がいれば、そちらに気は向いているんだ。困っているようであれば、すぐに声を掛けられるようにね。これでも、店主だから。それで、私に熱い視線を送っていたようだが、どうしたんだい?もしや、私を口説くつもりかい?」
「おや?そっけない素振りで、逆に私を口説いているのかい?貴方のように麗しきお嬢さんに誘われるなんて、私は幸せ者だ」
「ふっ……口説いてるのは、どっちだろうね。ほら、誘っているからおいで。お茶をしようじゃないか」
そう云いながら、手招きをする。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時