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探偵社内は、その日、緊張感に包まれていた。
襲撃や、入社試験を行った時とはまた違った緊張感。
自然を装いつつも、社員たちの視線が、チラ、チラ、と、ドアの向こうへと向けられる。
今まさに、社長室でされている話の内容が、今日中に仕上げなければならない書類よりも、気になって仕方ないのだ。
ヨコハマの片隅で、知る人ぞ知る古書堂を営む、最強の異能力者のスカウトの行方が。
それほど注目されているとは露知らず、当人は、福沢と、何故か乱歩と向かい合って座りながら、ほほ笑んでいた。
「突然の訪問だったのに、対応してくださり、ありがとうございます」
「構わん。こちらも、突然誘いを出したのだ。それで、断りの理由を話したいとのことだったが?」
「はい。国木田くんから伝わっているかもしれませんが、私が断った理由は全部でいつつあります」
そう云って、また、手のひらを広げた。
それを一度閉じ、ぴんと、人差し指を立てる。
「一つ、私は、探偵社に向いていません。
私は、名前も、話したこともない人を、命を懸けて助けることはできません。
どうしても、自分の利益を優先してしまうからです。
探偵社の皆さんや、友人、客人に手を貸すのは良いのですが、皆さんのようにそれを仕事としてするとなれば、きっと私は途中で嫌になってしまうでしょう。
私が差し出すものと、向こうから返される見返りが釣り合わないことに気づいて。
私は、ただ、今以上に失うものがないというだけで、皆さんのように、武術に優れているわけでも、強い心を持っているわけでもありません。
勇敢と無謀は、似ているようで全く違う。そうでしょう?
それはきっと、探偵社の志にはそぐわないはずです。
だから、私は探偵社には向いていないのです」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時