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実は、探偵社へのスカウトは、飛び上がるほどに嬉しかった。
ここ最近の客は探偵社員の、特に乱歩の来店が多い。
必然的に話す頻度も彼らよりになり、少なからず好意を抱いていた。
そして何より、彼らといることによって、記憶の気配がいつも以上に頻繁に感じることがあった。
元より何を無くしたかもわからないものに、喪失感を感じることは無かった。
だが、少なからず、他の人が持つ『名前』や『誕生日』といったものを持ち合わせないのは、形容しがたい寂しさのようなものがある。
そして何より、ふくろうには確信があった。
いつか、乱歩が自身の帰る方法を導き出してくれるという確信が。
だからこそ、探偵社との目に見えるつながりを持てるのは嬉しかったし、それに、組織に所属することにより、連中に利用されるだけの自分に、存在価値のようなものができるのではないかと思った。
けれど、記憶の気配が言うのだ。『彼らに深く踏み込んではいけない』と。
そうすれば、この世界が崩壊しかねないと。
本来であれば、1も2もなく、スカウトに飛びつきたいところだが、そうなるのは嫌だと、ふくろうは思いとどまったのだ。
カランカランと、ドアベルの音がして、思考が止まる。
「どうだった?」
「ぜひ来て話してほしいとのことだ」
「ありがとう。少し待っていてくれ」
ふくろうは立ち上がり、ティーセットを持って自室へと引っ込んだ。
次に出てきたとき、首にはストールが巻かれ、手には、いっぱいに詰まったお菓子の袋を持っていた。
「待たせたね、国木田くん。エスコートを頼めるかい?」
そう云って、ふくろうはほほ笑んだ。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時