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「……ほぅ」
カップをソーサーに戻しながら、ただ一言、そう云った。
「勧誘ねぇ。とても嬉しいお誘いだが、御断りするよ」
「何故だ?」
国木田は、まっすぐふくろうを見ていた。
ふくろうもまた、まっすぐ国木田を見返していた。
「一つ」
ふくろうは、人差し指を立てた。
「私は、探偵社に向いていない。二つ、私は、君たちとこうして話す以外に、深く関わるべきではないと思っている。三つ、私が探偵社に入ることで、ヨコハマの、ないしは世界のパワーバランスが崩れかねない。四つ、あくまで私はこの店の店主だ。来店してくれる客が来辛くなる状況にはしたくない。五つ、それに私は、今の暮らしが気に入っている。会社に入って時間に縛られるのは、単純に嫌だ」
国木田の前に小さな掌が差し出された。
その手をじっと見つめて、それから、小さく息を吐く。
「理由はわかった。だが、今後このような誘いはいくらでも来るだろう。何も社員として働いてほしいわけではない。貴様には、今まで通り、たまに出すこちらの依頼に協力してくれればそれでいいんだ」
「私のことを気遣ってくれてありがとう。だがね、国木田くん。異能力を保温機能に使ってはいるが、私は、自分がこれ以上ないほどの爆弾だという自覚はあるんだよ。ともすれば、この星ごと消滅させられるほどの威力のね」
そう云って、熱を放つポットに触れる。
「私の保護が目的のスカウトであれば、尚更だよ。そうだね、ここからは探偵社へ行って、社長の前で直々に話させてもらいたいんだが、アポイントメントなしで行っても大丈夫かい?」
「俺から連絡して、聞いてみよう」
「ありがとう」
国木田が席を立ち、外へ出る。
その背中を見ながら、空に近かったカップにお茶を淹れる。
丁度、最後の一杯だったようだ。
ゴールデンドロップを落とし、その、凝縮された香りを堪能する。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時