白紙の文学少女 (ページ13)

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女性は立ち上がり、空になった皿をシンクに置く。

「日が暮れるとこの辺は特に治安が悪いからな、早めに帰るといいさ。聞きたいことがあればいつでもくればいいし、連絡してくれ。年がら年中、暇な人間なものでな。何なら呼び出してくれてもいい。私も一度、探偵社に招待を受けてみたい」

ニコニコと笑いながら、女性はお菓子を袋に詰めていく。

「こんなもので悪いが、迷惑代としてもらってくれ」

そう云って、帰ろうと立ち上がった乱歩に差し出した。

「私の記憶の気配が、君たちと仲良くなりたいと思っているんだ。なにか、厄介な事件が起きたら、私はこの面倒で厄介な異能力を遺憾なく発揮させてもらうよ」

「はい。ありがとうございます！」

敦の元気のいい返事に、女性はより笑みを深めた。

「まあ、私の異能力なんかなくても、名探偵が華麗に解決してくれるだろうがな」

「そうだとも」

にぃっと胸を張って笑った乱歩を見て、女性は少し目を見開き、それから優しく微笑んだ。
店の前まで出てくれば、空は夕焼けに赤く染まっていた。

「では、よろしく頼むよ、名探偵。それから、虎少年」

「ん。また来るよ。『ふくろう』」

乱歩から呼ばれたその『名前』に、女性は面食らったように目を見開き、それからふはっと吹き出した。

「良い名前をありがとう。これからはそう名乗らせてもらうよ」

そう云って、女性はポケットから名刺を取り出した。
ショップカードに連絡先を追加しただけの、昨日貰ったものとそんなに変りないそれに、女性は『ふくろう』と書き入れる。
それを乱歩に渡し、恭しく、芝居がかった礼をした。

「ここは、欲しい本をなんでも入荷する古書堂、梟の止まり木。私は店主の『ふくろう』だ。君たちなら、本の依頼でも、異能力に関する依頼でも、お菓子の差し入れ依頼でも、何でも請け負おう」

そう云って、もう半分に減っている乱歩が持った袋を指さした。