彼女の悩み ４ ページ7
彼女は俺の言葉を聞いて、勢いよく振り向いた。
「沙羅がっ…ひゃ！」
彼女の声が静かな車内に響いた。
車内の視線が一気に彼女に集中した。
「静かに。」
俺がささやき声で彼女を戒める。
「すみません」
彼女は余計に顔を赤くして、うつむいた。
静かにと言いつつも、俺も動揺した。
振り向いた時の彼女の顔が数センチの距離だったのだ。
大学の最寄り駅に到着した。
滝のように人が降りていく。
俺たちも人混みに揉まれて、ヨロヨロと電車を降りた。
彼女を寮まで送り届けるため、大学側の出口へ出る。大学までの道は街灯の仄かな灯りしかなく、結構暗い。
２２時台の電車はサラリーマンやOL、バイト帰りの大学生が多いようだ。
もちろんその大学生は、俺たちの大学の学生だ。
寮に住んでいるのか、俺たちと同じ方向へ歩いていた。
彼女はまた、俺の３歩ぐらい後ろを歩いて着いてきた。
俺は歩くのを止めて、振り返った。
「隣歩いてよ。」
「は、はい。」
彼女が不器用に一歩前に踏み出した。
「横に来て。
また何か、しでかそうとしてる？」
彼女が上目遣いで俺を睨んだ。
「與那城先輩の前では、何もしません。
叱られますので。」
彼女がもう一歩前出た。
「じゃあ俺が１つ、しでかしてもいい？」
彼女が俺を見て
目を見開いた瞬間。
「え？」
俺は急に彼女の手を引っ張って抱きしめた。
サラリーマンがビックリして、じろじろ俺たちを見ながら横を通り過ぎた。
少し後ろを歩いていた大学生の女の子２人組は『え、やばい。こんなとこでよくやるよね。』と指をさして、小道の方へと消えていった。
彼女が俺の背中をトントンと叩いた。
「人が見てます。
離して下さい。」
「だーめ。」
俺は頑なに離そうとしない。
「だーめって…。」
「何考えてるのか教えてくれるまで離さない。」
「それは言いたくありません。」
彼女は即答した。
「じゃあ、ずっとこのままね。」
「、、、。」
彼女は声にもならない声で唸り始めた。
無理矢理俺をひっぺがそうとする。
「どうしたの？」
俺が彼女の頭を撫でると、
彼女のこわばった体から緊張がほぐれたように柔らかくなった。
「俺は、人から好奇な目でジロジロ見られるのは好きじゃないけど、今は誰に見られてても、それがうちの大学の人でも全然構わないよ。むしろ、俺たちが付き合ってるんだって周りに示したいな。こんな可愛い彼女がいるんだって。」
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作者名：ののん
| 作成日時：2020年5月13日 22時
